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第22話

 静かな部屋にノイズ混じりの動画の音声が響いている。  キスの合間に漏れてる俺の声。  もう何度も見たムービーだから身体が反応してしまいそうになる。  恥ずかしさに真っ赤になりながら、なんとか下半身に熱が集まらないように意識を逸らせる。 「あ、あの」  目の前でムービーを見られるなんて、恥ずかしいどころじゃないから優斗さんになんとか止めてもらおうと思った。  だけど俺が言うより早く、ムービーを見ていた優斗さんは微笑を俺に向けた。 「捺くん、気持ちよさそうだもんね。よっぽど松原さんのキスはうまいのかな?」 「……は……」  なん――だ……?  なんか、優しい微笑なのに、なんか……ちょっと雰囲気が変わったような気がする。 「ほら、実優には聞けないし」  くす、と笑った優斗さんに少しだけホッとした。  実優ちゃん絡みでそんなことを聞いたのかなって思ったから。  もともと実優ちゃんと優斗さんは付き合ってて、だけど松原が結果的には奪った形で。  だから――もしかしたら優斗さんは松原のことをずっと気にしていたのかも。  だから、だから……。 「捺くんをキス一つで落とすくらいだから相当うまいんだろうね」 「……」 「ああ、松原さん本気でしかけてるね。音まで聞こえてきそうだ」  ふ、と笑う優斗さんに俺はなにも言えない。  実優ちゃんを取られたから、だから、って思いながら、なのに優斗さんの雰囲気が妙に……艶っぽい気がして。  そしてその言葉に煽られるように松原とのキスを思い出してしまう。  自己処理のネタに使ってたムービーと、あの日の俺が松原に仕掛けたあの夜の、キスやなにかが一気に頭ん中を支配して下半身がどうしようもなく反応しかけていた。  焦りながら冷めかけたコーヒーに手を伸ばした。  半分くらい入っていたそれを一気に飲み干す。 「告白はしないの?」  平静にって考えてる俺に、追い打ちをかけるように優斗さんが声をかけてくる。 「……や……、えと」  告白すっ飛ばして松原に媚薬盛ってしまった、なんて言えるわけない。  それにあんなことしてしまったから告白できないし、松原は俺の気持ちに気づいてたけど……。 「無理……だし」 「気持ちを伝えるくらいはいいんじゃないのかな? はっきりしたほうが諦めもつきやすい気がするけど」 「……」  確かにそうかもしれない。  でも、もう俺は振られているも同然で、あきらめなきゃいけねーのに……ずるずる引きずってる。 「松原は……俺の気持ち知ってるから……」  気づいたら弱々しく呟いてた。 「知ってる?」 「……はい。……もう、一か月前くらいに……その振られたような感じっつーか」  誰にも言えなかったこと。だから、俺の気持ちを知っても引かずに話しを聞いてくれる優斗さんについ言ってしまったのかもしれない。 「……そうなんだね。会ってちゃんと伝えたんだ?」 「……いや……ただ……マンションに……」  行って――。  ……行って?  すとーっぷ!  あ、危ないところだった……。また墓穴掘るところだった!  のこのこマンションに行ったなんて、実優ちゃんの叔父であるこの人に言うべきじゃ……ないよな? 「マンションまで行ったんだね」 「……」  もう、すでに墓穴掘ってる……?

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