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第37話

 俺が初めて優斗さんと関係を持った夏休みからもう2カ月が経とうとしていた。  季節は秋になってて、いっきに寒くなってきてる。  あのとき――はじめて優斗さんとシタとき、これっきり会うこともないんだろうなって思ってた。 だけどその予想はあっっさり崩された。  数日してから優斗さんから連絡が来て、ご飯でも食べに行こうってなって。  そしてご飯食べて……まるで当たり前のように優斗さんのマンションに行って、2回目のセックスをした。  なんで優斗さんが俺なんか、つーか男の俺にわざわざ手を出すのかわかんないけど、それから優斗さんから連絡があるたびに会ってヤって。  気づいたら毎週末、優斗さんところに泊りに行くようになってた。  もちろん男同士の俺たちが恋人同士ってわけないし、単なるセフレなんだろうけど。  でもそういうの抜きにしても、意外と優斗さんと過ごす時間は楽しかった。  勉強も見てくれるし、ゲームも一緒にしてくれるし、なんつーか、お兄ちゃん的な感じのような。 だけど――。  ガタンと大きな揺れに、俺も大きくため息をついた。  もう日はとっくに傾いてる夕方。  優斗さんのマンションを出て俺は電車に乗って家に帰ってる最中。  最後尾の車両の片隅で優斗さんとのことを考えてはため息が出ちまう。  なんだかなぁ……。  楽しいんだけど、セックスは……気持ちいいんだけど、だけど、優斗さんと別れたあとに残るのはなんか消化不良みたいなモヤモヤさで。  それがなんなのかよくわからない。  別にセフレなんてこれまでだっていたし、それが女から男に変わったってだけだし。  そりゃ正直に優斗さんに開発されてしまった身体は、男同士のセックスにハマりまくってるけど……。  だけど、なんかモヤモヤする。  なんなんだろ、よくわかんねぇ。  もう一度ため息をついて、窓の外に目を向けた。 「――」 「――て」  それまでどっぷり考え込んできた俺はすぐ隣から聞こえてくる話し声がなんとなく引っかかった。  ちらり視線を向ける。  スーツ姿の二人の男がいた。片方は優斗さんより少し上くらいかな?  30代前半な感じで、インテリっぽい雰囲気のメガネをかけた男。  もう一人は大学生くらいにも見える、やたら顔の可愛い男だった。  この人たちも休日出勤なのかな。  社会人は大変だな……。  優斗さん、遅くなるって言ってたけど、大丈夫かな――……。 「……いて」 「……」  は?  なんだ?  なんか今、インテリ眼鏡から変な言葉が聞こえた気がする。  そして今度は可愛いほうの男がなんか言って、その一部に……びびった。 「倉前さん――だいて――……」 「……っ」  はぁ!???  思わず出そうになった声を必死で飲み込んだ。  な、なんだ?  聞き間違いか?? 「わかった。じゃあ明日――代手――」  ぼそぼそと話しているから全部聞き取れるわけじゃないけど、やっぱり……抱いて???  な、なんだ?  俺、耳おかしくなったのか?  耳を引っ張りながら、気になってその二人の男の会話に耳をそばだててしまってた。 「達也、仕事の話はもういいだろ」 「……はい」  仕事!?  仕事で"だいて"ってなんだよ!  スーツ着てるけどリーマンじゃねーのかよ!?  イメクラか!? 「しかしこうやって満員電車でお前と一緒というのもなかなかいいな」 「なんでですか?」 「堂々とお前に密着できるからな?」 「……っ」  ………。 「倉前さん」 「"総介"と呼べ」 「……でも」 「達也?」 「……そ、総介さん」  ……う、うあああ!  まじだ。  ガチでカップルだ!  つーか、いちゃいちゃしすぎだろ!??  倉前と呼ばれてるインテリ眼鏡は涼しい顔で笑ってるけど、明らかにデレてる!  達也っていう可愛い系の男は顔を赤くして俯いてるし。  ……な、なんか見てるこっちが恥ずかしいんだけど!  ガタンガタンって電車が揺れて、インテリ眼鏡がその揺れを利用するようにしてさらに達也に密着してるのがわかった。  そしてふわっと、なんか匂いが流れてきた。  たぶんインテリ眼鏡のつけてる香水。それはよく嗅いだことのある匂い。  ――優斗さんと同じ香水だ。  あんまり甘すぎない爽やかな香り。  シャネルの『アリュールオムスポーツ』だっけ。 「達也……」 「え……っ、総介さん!?」 「……」  おおーい。あんたたちナニシテルンデスカ。  ぼそぼそこそこそしてる男同士のカップルはほぼ抱きあうようにして立ってる。  俺たちの周りはでかい音量で音楽を聞いてる男や、小説を読みふけってる男や、大きな声で喋ってる女子大生っぽいのがいるけど、みんなこっちを見てない。  インテリ眼鏡はたぶんそれをわかってて大胆な行動に出てる、ような気がした。

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