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第63話
俺は息を飲んだ。
――な、なんで。
だって会わなかった一か月ずっとやりとりはメールだけだった。
最初のころは電話あったけど……俺が取らなかったからかからなくなったんだけど。
でも、でもなんで、いま?
今夜会う約束してんのに、なんで。
頭ん中はパニクって考えがまとまらない。
ただわかるのは優斗さんからの着信が鳴り響いてるってことと、そして――俺がいま……智紀さんと抱きあってるっていう事実。
胸を刺されたみたいな痛みが走る。
罪悪感……みたいな。
どうしよう、っていう不安と、焦り。
「捺、電話――なってるよ?」
智紀さんが言って、我にかえる。
取らないの、って首を傾げる智紀さんに俺はなにも言えないで。
そしたら智紀さんが埋まったままだった後孔から指を引き抜いて、俺の背を抱えた。
前のめりになる。落ちそうになってとっさに智紀さんの首に手を回す。
すぐに体勢は元に戻ったけど、その手にあるものに俺は目を見開いて智紀さんを見つめる。
パニクってる頭が、さらにパニクる。
不安と焦りと、そして戸惑いが頭ん中をぐるぐる回ってる。
「ほら、出なきゃ……ね?」
なんで、そんな愉しそうなのかわかんねー。
智紀さんは俺に向かって口角を上げると、さっきまで床に落ちていて拾い上げた俺のケータイを見せて。
「……ッ、ちょッ待っ……」
焦る俺が手を伸ばすけど、手が届いた瞬間に、受話ボタンが押されてた。
"はい"って口パクで言って智紀さんが俺の耳にケータイを当てる。
ひんやりしたケータイが耳に触れて。
だけど……。
『――捺くん?』
聴こえてきたのは冷たさなんてない、変わらない優しい声だった。
『久しぶり。いま大丈夫? 家?』
一ヶ月前となんにも変わってない、穏やかな口調。
「う…うん。家……」
一ヶ月前と変わったつもりはない。
けど、いまの俺の状況はめちゃくちゃ変わってる。
『どうしたの、元気ないね?』
「え……、別に。いま…昼寝してたから」
智紀さんの膝の上から降りたかったけど、腰をがっちり掴まれてできない。
『そうだったんだ、ごめんね』
「だ、大丈夫。…それよりどうかした…?」
すぐ前にいる智紀さんの視線を感じて顔を背けて聴いてみる。
『ああ、今日なんだけど仕事が長引いててね、遅れそうなんだ』
「そうなんだ…。メールでよかったのに」
『メールがもし気づいてもらえなかったらと思って念のためね。あと遅れた分――早く捺くんの声が聞きたかったから…かな』
「……え」
向こうから少し笑う気配がして、なんか顔が熱くなった。
「ふ、ふーん……それで何時くらいに……っ」
ばかみたいに顔を熱くして動揺しながら聞いてたら――いきなり刺激が走った。
びくりと身体が震える。驚いて、智紀さんを見た。
『そうだな……多分遅くても8時には……』
優斗さんの声が遠退いてく気がする。
スマホを握りしめて俺は首を振って、智紀さんの手を掴んだ。
だけど――俺の息子を握ってゆっくり上下する手の動きは止まらない。
「……っ…」
ヤメテくれ、って口パクで言う。
智紀さんは首を傾げて扱く手を止めた。
だけど俺のは握ったまま。
ギュッと握られて声が出そうになって必死で噛み殺した。
『――迎えに行っていいかな』
ずっと優斗さんのしゃべってる声は聞こえてくるけど、頭には入ってこない。
「……う、ん」
声が震えないように気をつけて相槌うつのが精一杯だった。
そんな俺を眺めてた智紀さんはようやく手を離してくれた。
けど、
「声、出しちゃダメだよ」
ってケータイを当ててないほうの耳元で囁いてきた。
なんか、ヤな予感がした途端、智紀さんが俺の腰を引き寄せて、少し浮かせて。
「……ッ!」
後孔に触れる熱く硬い感触。
焦って抵抗したけど、きつく抱き留められて。
そして、後孔を押し広げるようにして智紀さんのが、俺を貫いた。
突然で、久しぶりで、思わず声が出そうになって唇を噛みしめて耐えた。
鈍い痛みと熱がじわじわ広がる。
眉を寄せて智紀さんを見たら、妖艶な笑顔を返される。
「……っ、……ふ」
腰を揺すられ息子を握られて、つい声が出て、慌てて手の甲で口を押さえた。
『――捺くん?』
久しぶりに受け入れて圧迫感が苦しくて握りしめてたスマホから優斗さんの声が聞こえてくる。
返事しなくちゃって思うけど、下手に口開いたら変な声だしちまいそうで怖い。
『どうかした?』
「……っ、ううん……なんで……も、っ」
後はまだ慣れてないけど、前を弄られて快感が混じり合ってくる。
ちゃんとしないと、ヤバイって思うのにうまく口が回らない。
どうしよう、どうしようって焦る。
そんな俺を見つめながら智紀さんが片手で俺の腰を掴んで揺すって。
突き刺さった硬いものが擦れて緩く上下するたびに、だんだんと身体が思い出すように疼きだしてきた。
『そう?』
「……んっ」
何度も小刻みに突かれるたびに気持ちよさが増してく。
耐える俺の反応を楽しんでるように、俺が喋ろうとするたびに息子をいじる手の動きが早まったり、突き上げが強くなったりして、頭が朦朧としてくる。
声を我慢しながら、衝撃に耐えるために智紀さんの肩に額を擦りつけて、そっと息を吐く。
ダメだって思うのに、だんだんと快感に侵されてく。
だけど。
『……捺くん、君……』
響いてきた優斗さんの声が――どこか不審そうな口調で俺の名前を呼んで、ハッとした。
ヤバ、い――。
俺、なに、電話……っ。
一層パニックになる中で、変わらずに智紀さんは俺を攻め立ててくるから、また流されそうになる。
それを何とか踏ん張って、必死で声を出した。
「あ、あの……ッ、……いま、お、おふくろに呼ばれ……てて、だから、切るね…っ。なんかあったらメールで…!!」
もう一気にまくしたててそこまで言って返事も聞かずに電話を切った。
その瞬間、さらに激しく智紀さんが動き出して手からケータイが落ちてしまう。
「もっと話してればよかったのに」
ほんの少しだけ掠れた低い声で智紀さんが俺の唇を舐めながらそんなことを言ってくる。
「……っ、ん…っ。な、なんで……ッ」
電話の最中にいきなりなんてありえねー!
って俺がにらみつけるけど、智紀さんは返事もせずに腰を打ちつけてくる。
「……あ、ッ……ん…っ」
一瞬律動が止まったかと思うとソファーに押し倒された。
「ちょっ……っひゃ、っ」
待ってと言う間もなく正常位で突きあげられる。
覆いかぶさるようにして身体を揺すられ肌と肌がぶつかる音が大きく響いてる。
そして俺の息子がまた扱かれ始めて、優斗さんからの電話のこととかもうなんも考えられないくらいの快感に引きずりこまれてく。
昨日までならありえないこの状況が、気持ちよすぎてわけわかんねー。
2度目の射精感を覚えながら、気づけば俺も自分で腰を振ってて、苦しいくらいの律動に智紀さんの背中に手を回してすがりついてしまった。
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