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第80話
「うぜぇ」
週が明けて火曜日。
学校が終わって放課後、和と一緒に帰ってたらいきなり頭を叩かれた。
「って! なにすんだよ! バカカズ!!」
「バカはおまえだろーが、きのーからずっと四六時中ため息ばっかりつきやがって。いい加減うぜえんだよ」
「……うっせーな、俺の勝手だろーが!」
「はー、はー、暗いため息ついて、こっちまで憂鬱になんだろ!」
「ケッ、和のバーカバーカ!!」
ムカついたからっていうか、図星だったから、とりあえず和に蹴りいれた。
当たり前だけど、「てめぇ」って怒られて、逃げる。
ウザイって言ってるけど、きっと和なりに心配してんだろうなってのはわかる。
これ以上なんか言ってこられたら、余計なこと喋っべってしまいそうな気がした。
「じゃーな!」
だから、そのまま言い逃げして、「おい、捺!」って怒鳴る和を無視して走って帰った。
土曜日ヤりまくって疲れてた身体も、若いからか火曜日になりゃもう平気。
ただなんかわかんねーけど、気づいたらため息ばっかついてた。
平日って意外と時間経つの早いし、もう火曜も終わりだし。
いつもたいてい優斗さんや智紀さんから連絡がきてたのは水曜とか木曜だった。
ふたりとも『また』って言ってた、ってことはもう少ししたら連絡が来るかもってことで。
――正直、なんかまだいまは二人のどちらも会いたくないっていうか。
どんな顔して会えばいいんだろってそんなことばっか毎日考えてた。
「あー……やっぱ和んとこ戻ろうかな」
一人になるとすぐに頭ん中にモヤモヤが蔓延憂鬱さが増す。
だから今日は和とゲーセンでも寄って帰ろうって思ってたのに。
「ウゼェウゼェうぜぇんだよ、バカ和め」
ぶつぶつ悪態つきながら、結局ひとりでいたくないから和に連絡取ろうと思ってスマホを取り出した。なんのメッセージ受信してないことにとりあえずホッとする。
あの二人から連絡がないことに安心するとか――……なんかもう、どんだけ俺ヘタレ?
「……サイアク」
またぶつぶつつ呟きながら和の電話番号表示させて、発信ボタン押そうとした。
だけど、その前に――大音量で着信が鳴りだした。
かけてきてるのは――……。
「……誰だ?」
知らない、番号だった。
登録されてない番号からだ。間違いか、それとも誰か番号変えた?
取るかなやんだけど、しつこく鳴り続けるから仕方なく出る。
「――は……」
はい、って俺が言う前にバカでかい声が響く。
『俺の電話には2コール以内に出ろッ!』
「……」
いきなりな俺様発言。
なんだ、こいつ。
「はぁ?! つーか、テメェ誰なんだよ」
『俺だ』
「は? 俺ってなんだよ、俺俺サギかよ! 俺俺――……って……」
え。
"俺"俺……な。
俺様……?
なんか聞き覚えのある声と、やたら俺様な態度に、まさか……って思って。
「……え、と。……まさか、松原?」
違うよな、って感じで半笑いで訊いてみた。
そしたらあっさりと、
『他に誰がいる』
って、やっぱりな俺様発言。
「え、ええ!? まじで!? つーか、なんで俺の番号!!? つーか、なんだよ、いきなり!!??」
とにかくびっくりして叫ぶ。
『うっせぇな、黙れ』
有無を言わせないような低い声。
「……」
なんなんだよ、こいつ。
どこまで俺様だよ!って思いながら口閉じた。
『おい、向井』
「……なに」
『お前、金曜の夜予定空けておけ。8時に家に迎え行く』
「はぁ……あ!? え!? なに!?」
『忘れんなよ。忘れたらどうなるかわかってんだろうな。ちゃんとメモっておけよ。じゃーな』
驚く俺に一気にまくしたてる松原。
意味がわからないでいるとそう脅されて、そんで――切れた。
つーか、切られた。
「な、なんだよ、あいつ!?」
突然かけてきて、金曜日!?
まじで意味わかんねーんだけど!!!
どういうことだ!?
――でも、ひとつだけわかんのは、ちゃんと予定開けとかなきゃなんかヤバそうだってことだ。
何なんだよホント。
疑問ばっかりで意味不明。
ただ金曜の予定が入ったから……もしあの二人から連絡あったらそれ理由に断ろうか、なんてずるいこと考えた。
――……だって、どうすりゃいいのかわかんねーんだから、しかたねーじゃん。
でっかいため息ついて、とりあえず俺の頭ん中のスケジュール帳に金曜日の予定をインプットした。
そして、その金曜日。
「おら、乗れ」
相変わらず俺様な松原がまじで俺んちの家まで迎えに来たんだけど。
まさかその夜。
とんでもないことが俺を待ちうけてるなんて、ちっとも気づいてなかった。
第三夜『性少年の受難』終
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