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第4夜性少年の決断 第81話

 いきなり松原から電話がかかってきた火曜日。 『お前、金曜の夜予定空けておけ。8時に家に迎え行く』  俺様松原は俺にそう命令して。  一体なんなんだって思いながら、次の日実優ちゃんに会ったとき訊いてみようかって思った。  だけどそういや松原とはいろいろ……あったっていうかなんかなーだし、結局訊けずにあっという間に金曜日が来てしまって。 「おら、乗れ」  約束通りの8時きっかり。  俺の家の前にあのたっけー白い車が停まって、まじで迎えに来たんだけど。  乗っていいのかって戸惑ってるとすんげぇ睨まれた。 「早くしろ!」  煙草くわえて急かす松原にしかたなく助手席に乗り込んだ。  松原はちらっと俺を見て「シートベルトちゃんとしろ」って言いながらすぐに車を発進させた。 「………つーかさ、なんなんだよ」  車には松原だけ。 「いきなりだし。どこ行くんだよ」  松原とはあの――俺が痴漢にあった日以来だ。  こいつから電話がかかってくるなんて想像もしてなかった。  めちゃくちゃびっくりだし、つーかほんと何の用なんだろ? 「なぁ……。おいってば!」  話しかけてんのに松原は前を向いて煙草ふかしながらハンドル握ってるだけで、俺のことは完璧無視。  こんのヤロー!  ムカつくんだけどー!! 「おい! 変態教師!!」 「元教師、だ」  ツッコミそこだけかよ!!! 「んなのどーでもいーから、いったい何の用だよ!!」 「……チッ」  松原は苛立たしそうに舌打ちすると横目に俺を睨みつけてきた。 「うるさいぞ、30分くらいで着くから黙ってろ」 「だからどこにだよ!?」  そう訊くのに結局また無視で、それっきり松原はなんにも喋らなかった。  なんなんだよ、コイツ。  ってマジでムカつきながら俺は窓の外を見る。  車はどんどんどこかに向かって走ってる。  ……ていうか、俺のこのこ着いてきてよかったのかな?  こいつがあんまりにも俺様王様だから後が怖くて約束通り待ってたけど、そもそも俺待ってた必要あんのか?  それに、ほんとまじでどこに行くんだろう。  どんどんネオンが増えてって――……っていうか飲み屋街のほうに車は入ってって。  高校生の俺と、元教師で飲み!?  一瞬そう思ったけど、なんで俺!?って、やっぱ思うし。  もうまじでなんなんだよー!!  来なきゃよかったって内心ため息ついたとき、車がコインパーキングに入った。  駐車させて松原があっさりと降りる。 「おい、お前も降りろ」  どうすりゃいいのかわかんねーで、助手席に座ったままでいると急かされた。  しぶしぶ車から降りると松原は俺に背を向けて歩き出してて。 「……ちょっと待てってば! どこ行くんだよ!!」  いい加減にしろって叫ぶと、松原が立ち止まって振り返った。  めんどうくさそうに松原がため息をつく。  そして俺の方に歩いてきた。  夜の店が連なる街の一角の薄暗い駐車場。  ずんずん無表情に俺へと向かってくる松原との距離が狭まっていって、なんか怖くって後ずさった。  背中が車にぶつかって立ち止まる俺にそれでも松原は近づいてくる。 「……な、なんだよ……」  やっと松原が止まった場所はほんの数十センチしか離れてないところ。  松原は俺を見下ろして、またため息をついた。  いつからどんだけヘタレになっちまったのか、いちいちびくつく情けない俺。 「……だ、だから! なんなんだよ!!」  それを吹き飛ばすようにもう一度叫んだ。 「あのさ、向井」  俺様松原は変わらない無表情。 「……なんだよ」  あくまで無表情のまま――松原はとんでもないことを口にした。 「お前、まだ俺のこと好きか?」 「……」  え……?  こいつ、いまなんて言った? 『まだ、俺のこと好きか?』  は――……?  ……ていうか、そうだ、俺。  前、こいつのことが好きで、そんで……。  思い出したくない、できれば封印してしまいたい不祥事っていうのか俺の馬鹿すぎる行為を思い出して顔が一気に熱くなるのがわかった。  めちゃくちゃ恥ずかしくって言葉が出せないでいたら松原の手が伸びてきた。  その手が俺の顎掴んで持ち上げて。 「――……え」  松原の顔が……近づいて……くる?  な、なんで!?  頭ん中が爆発したみたいにパニックになる。  俺が焦ってる間にもゆっくり松原は顔を近づけてきてて。  唇同士が触れそうに――……。

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