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第5夜 第8話
『途中からだけどちゃんと教室戻るんだよ』
優斗さんに言われたから、優斗さん見送ったあとちゃんと教室に戻った。
和がなんか言いたそうにしてたけど無視して机に突っ伏した。
身体がだるい。
なんでヤったあとって、こんな眠くなるんだろう。
しかも今日はめちゃくちゃいい天気で窓際の俺にとっては日当たり良すぎて暖かくて寝て下さいって言ってるようなもんだ。
うとうとしながら、ヤらなきゃよかったって後悔した。
学校の、あんなところでスるような人じゃねーのに。
無理矢理自分のとこまで引きづりおろして、シてもらって。
――……最悪だ。
顔を伏せたまま横を向いて少しだけ目を開ける。
眩しい日差しに目がチカチカする。
でも目を閉じずに外を眺めたまま、寝たのか寝てないのか自分でもわかんねーくらいぼうっとしてその時間を過ごした。
「捺くん、ゆーにーちゃんと会った?」
放課後の帰り道実優ちゃんが屈託のない笑顔で訊いてくる。
毎日一緒ってわけじゃねーけど、和や七香、羽純ちゃんとたまに一緒に帰ったりしてた。
「……少しね」
優斗さんとセックスしてたって言ったら、どんな顔するんだろ。
「ゆーにーちゃん三者面談終わってからすぐ捺くんにメールしてたもん」
今日は俺と実優ちゃんが二人並んで他は少し前を歩いていた。
それに――ちょっと失敗したな、ってひどいことを思いながら苦笑する。
「俺が優斗さんにメール入れてたから」
「ほんとに仲良いよねー」
実優ちゃんが楽しそうに笑うから俺は照れたように頬を掻く。
俺と優斗さんが付き合いだしたことを実優ちゃんは自分のことのように喜んで祝福してくれた。
男同士だっていうのに、全然偏見もしないで。
「実優ちゃんだって松原とらぶらぶのくせに」
からかうように言えば、実優ちゃんは頬を染める。
すっげぇ素直で良い子、だ。
さすが優斗さんの姪って感じで。
――なんで姪なんだろ、って思うけど。
「先生は意地悪ばっかりだよ! ゆーにーちゃんは優しいからいいよね」
「……そーだね」
それって経験から言えるのかな。
実優ちゃんと優斗さんは"恋人"だった期間もあるから。
……なんてくだんねーこと考える自分に嫌気がさす。
いつ頃からだろ、こんなバカみてぇなこと考えるようになったのは。
最初のころはなんにも思ってなかった。
優斗さんと実優ちゃんが禁断って言われる関係だったことは知ってたし、俺だって実優ちゃんのこと好きだったし。
別になんにも思ってなかった。
でも松原のマンションで四人でご飯食べたりしてるうちに――少ししんどくなってきた。
優斗さんが俺と実優ちゃんに対するの好きは種類が違う。
でも別れたって優斗さんの特別は実優ちゃんだ。
優斗さんのマンションに行くたびに気になる。
いつまで――"実優ちゃんの部屋"はあるんだろうって。
人生なにがあるかわかんねーし……実優ちゃんと松原が別れない可能性もないことはないんだろうけど。
って……まじでくだらねー。
優斗さんと実優ちゃんがヨリもどすなんてことないのはちゃんとわかってる。
それに二人が付き合ってたのが"過去"だってことも。
誰にだって過去なんてあるんだから、そんなもんいちいち気にしてたってしょーがねーし。
それに実優ちゃんが優斗さんにとって特別なのは優斗さんの亡くなったお姉さんの忘れ形見、だからだ。
だから、ちゃんとわかってる。
しょうがない、って。
「……それでね、ゆーにーちゃんが」
俺のために優斗さん情報を流してくれる実優ちゃんに笑いながら……"わかってる"くせに苛立つ。
そんでそんな心の狭い自分に、さらに苛立って。
くだらなすぎるループの中に――俺はいた。
あっというまに毎日は過ぎていってようやくゴールデンウィークに突入した。
まぁ休みは多いけど途中ある平日がかったるい。
それでも今度のGWはほとんど優斗さんの家に泊ることができてラッキーだった。
「捺くんも行きたかったんじゃないの、旅行」
「……ぜんっぜん!」
優斗さんは家族と過ごす時間も大切にするようにっていうからGWどれくらい泊りいっていいかなーって悩んでたんだけど、俺の両親がGW突入前日になって――。
『明日からグアム行ってくるから』
とか、言いだしてオヤジは有給取っておふくろと二人GW丸々海外旅行に行ってしまった。
あと家にはねーちゃんがいるけど大学生で彼氏んちに入り浸っているからどうでもいい。
「そう? 俺達もどこか行けばよかったね」
「いいよ、別に! 前も言ったけど春休みも旅行したしー、正月も温泉行ったし」
そう言う俺らはいま映画館にいた。
旅行には行かないでまったりすごす連休。
でもずっと家にいるのもねって優斗さんが言って、いま流行ってるらしいアクションものの映画を見に来てる。
「温泉よかったよね。俺また行きたいな」
正月、元旦から2泊3日で行った温泉旅行はのんびりできてよかったな。
俺んちは別に正月だからってどこに行くわけでもない適当一家で、優斗さんは元旦昼間は実優ちゃんと松原と食事したらしいけどそれ以外は予定を入れてなくて、それで温泉に行った。
「そうだね。浴衣姿の捺くんは色っぽかったしね」
「……ゆ、優斗さんのほうが」
色っぽかったし、って旅館でのあれやこれやを思い出して体温上がんのがわかる。
まだ予告前のCMが始まってるだけのスクリーン。場内はまだ少し明かりがついてる。
顔赤くなってるのが見えてないか心配で頬をさすってたら優斗さんが俺の方に顔を寄せてきた。
「また近いうちに行こうね、温泉」
「行く!」
アホみたいにでかい声で返事してしまった。
小さい声での喋り声しかしてなかった場内に響いて焦って首をすくめた。
隣で笑う優斗さんから顔を背けて誤魔化すようにジュース飲んで早く映画が始まるように祈る。
そしてそのあとすぐに明かりが消えていって予告編が始まりだして本編が始まって、俺達は映画に集中していった。
***
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