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第5夜 第18話

「っあー、きもちいー!」  ちょっと熱めのお湯。  でも檜のいい香りとか晴れた夜空とか綺麗で、気持ちいい。  露天風呂って解放感あっていいよな。 「いいね、ここのお風呂」  少し遅れて入ってきた優斗さんが俺の傍に腰を下ろす。  お湯が揺れて、お湯の感触でもみるかのように手で触れてる優斗さん。 「正月に行った旅館も好きだよ」  正月泊った旅館も客室露天付きで、そして他にも貸し切り風呂があって、いくつか入った。  温泉好きらしい優斗さんの影響で俺も風呂好きになりそうだ。  まぁ暑がりだし長い時間は入ってられねーけど。 「あそこもよかったね」 「うん」  また行きたいなーなんて呟いてたら優斗さんがお湯の中で手を伸ばしてきて俺の腰を掴む。  浮力のせいで軽く浮かされて俺は優斗さんの膝の上に乗せられた。 「でも俺は捺くんと一緒ならどこでもいいよ」  狙って、とかじゃなく自然とそんなことを言って優斗さんは俺を抱きしめた。  俺だって優斗さんとならどこでもいいし。  どこに行っても楽しいと思う。  返事の代わりにキスしてみたらすぐに舌が差し込まれる。  いっつもいつも同じこともう何万回ってくらいシてんのに、なんで飽きねーんだろ。  角度変えて何度も貪るように舌を絡めた。  密着してるからお湯の中で俺の腰辺りに硬いものが当たってくるのがすぐわかる。 「……っん」  それに俺のだってさっきヤったばっかなのにまた勃ちあがってて、優斗さんが握ってきて。 「……やばい、またシたくなってきた」  くすくす笑いながら互いの唾液で濡れた唇を俺の耳に寄せて優斗さんが囁く。 「……俺は……いいけど」  夜風の冷たさと風呂の熱さと。  そして、 「……ッ……は……ぁ」  湯船の中でいきなり挿入された熱さと硬さ。  ぐちぐちとお湯を巻き込んで出し入れされる優斗さんのもの。  のぼせるくらい気持ちよくって、結局マジでのぼせるくらい風呂にはいったままヤって。  半端なく身体は疲れたけど、でもめちゃくちゃ幸せだった。 ***  次の日。 「……これでいいかなー……」  旅館をチャックアウトして、帰り道に立ち寄った土産屋さんで適当なお菓子を選んでいた。  もう朝から何回も出ているのは欠伸。  昨日はお風呂から上がって、さすがに疲れたから休んでたんだけど、結局最後寝る前にまたシて気失うようにして寝てた。  ヤりすぎた……って朝起きて思ったくらい疲労感たっぷり。  そんな俺に対して優斗さんは俺より先に起きてた上に朝風呂までしてたし……。  やっぱ俺も体力つけよう、そんなことをしみじみ決意した。 「捺くん、それにするの?」  いくつかのお土産を手にした実優ちゃんが俺の傍にやってきた。  ちなみに優斗さんと松原は二人して喫煙スペースに行ってる。 「うん。実優ちゃんは……そんな買うの?」  大きめのお菓子の箱に、小さい箱。あとはストラップとかも持ってる。  実優ちゃんは頷いて、これは誰の~って教えてくれる。 「このストラップは七香ちゃんと羽純ちゃんとお揃いでね、これは和くん。あと先生のご実家と、智紀さんに」  女の子ってマメだなー……。  あまりにも多い量に苦笑いが漏れた。  和なんて土産ってだけでも裏でめちゃくちゃ喜びそうだよな。  そんなこと考えてたら、 「それとこれはゆーにーちゃんと捺くんに」 「……は?」  とか言うからぽかんとしてしまう。 「ほら、旅行のときってみんなにお土産買うけど自分にはあんまり買わないでしょ? だから私からゆーにーちゃんと捺くんに旅の記念のお土産」  なんて、実優ちゃんは屈託のない笑顔を浮かべる。  なんか――こういうことされると日ごろの自分の心の狭さを実感して情けなるっつーか……。 「……ありがと」  こんなイイ子にヤキモチばっか妬いてんじゃねーよ、俺。  なんて自分にツッコミながら、俺もじゃあ実優ちゃんたちになんか買おうかなーって考えて。 「じーちゃんとかばーちゃんにはいいの?」  そういやたくさん買ってるわりに"祖父母"の分が入ってなかったなって思って何気なく言った。 「……え?」 「え?」  ぽかんとした実優ちゃんと視線が合う。  実優ちゃんはすぐにハッとしたように笑った。 「ん。それはいいんだ」 「……そっか」 「おい、土産決まったか」  ちょうど優斗さんと松原が煙草吸い終えて店内の俺達のところにやってきた。 「うん、先生、これとこれー」 「……なんだよ、お前。またこの量……」  呆れたように松原がため息ついて、実優ちゃんがお土産の内訳を説明しだす。  俺の隣に優斗さんが並んで、 「捺くんはそれだけ?」  って聞いてきた。 「え、ああ……。あ、あのさ」  優斗さんの手を引っ張って実優ちゃんたちから少し離れる。 「なに?」 「あの、実優ちゃんが俺達にお土産くれるっていうから俺もなんか実優ちゃんに買おうかなって思うんだけど、なにがいいかな?」 「ああ」  優斗さんが可笑しそうに目を細めて、そして俺と一緒にお土産を物色し始めた。  ――……そういや、俺、優斗さんの両親がどんなひとかって聞いたことないかも。  でもなんとなく……さっきの実優ちゃんの反応に、聞いちゃいけないことかなって気がした。  だって――優斗さんのお姉さんが亡くなって、大学生だった優斗さんが実優ちゃんを引き取ったってことは……もしかしたら優斗さんの家って複雑だったりすんのかもしれねーし。  お姉さんと両親がうまくいってなかったのかもしれねーし。  簡単に聞いちゃいけないよな。  そう思って。  そして――"だから"、優斗さんと実優ちゃんの絆って深いのかな、って思った。  結局またループして、もやっとしたものが広がる自分にため息が出る。 「捺くん、実優にはこれにして。それで、これ」  優斗さんが俺に見せてきたのは伝統工芸の土産物のお箸だった。 「俺達のお土産にしない?」 「へ?」  箸って渋いなー、ってマジマジと少し模様が違う二つの箸を眺める。 「夫婦箸みたいな?」 「……めおと?」  にこにこしてる優斗さんはそれを買う気満々みたいで俺が持ってたお土産を取るとレジに向かっていく。  慌てて俺も追いかけながら、めおと……って夫婦!?、って顔が赤くなっていくのがわかった。 ――――― ――― ――  そうして一泊の温泉旅行はあっという間に終わって、日常が戻ってくる。  他愛のない日常の中で優斗さんと会えた日はすっげぇ幸せだけど。  でも少しづつ……くだんねー嫉妬が塵のように胸の奥に溜まっていくのを感じていた。

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