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第5夜 第47話
気まずさとは違うけど、照れるっつーかなんかちょっと言葉がでなくて見つめ合うような状態が少し続いた。
「あ、あの、早かったね」
定時に終わるって聞いてたから予想通りの時間だけど、とっかかりっつーか話すきっかけがほしくてへらっと笑いかける。
「ああ、定時だったし。それに……早く捺くんに会いたかったから」
「……」
相変わらずさらっと言ってくれる。
こっちが恥ずかしくなる。
なんかほんと……やばい。
「……っとさ、メシはまだ早いよね」
俺もーとか言いたかったけど、気持ち的に妙に久しぶりに感じて素直に言えずに話題を変えてしまった。
ヘタレ!って自分に悪態つきながら、優斗さんが俺のとなりに並んで二人してリビングに向かった。
「そうだね。捺くんはお腹空いてない? 空いてるならもう夕食でもいいよ?」
「俺はまだ大丈夫」
「そう? 今日はなにを食べようか」
「……え」
にこにこと訊いてくる優斗さんに、実優ちゃん夕食作りにくること言ってなかったのか、っていまさら知った。
リビング入ったらキッチンがすぐそばで優斗さんが何気なくそっち見て首傾げてる。
「あれ、捺くんなにか作ってくれたの?」
「え……っと、いや」
不思議そうにキッチンに入っていく優斗さんをさりげなく見つめてみる。
実優ちゃんといろいろ喋ってたときに――、
『ゆーにーちゃんって私のほうが学校で捺くんと会う時間多いから、たまに羨ましいみたいなこと言うんだよ』
なんてこと言ってたの思い出した。
実優ちゃんが作りに来たって言ったらどんな反応するのかな……。
いややっぱ実優ちゃんが大げさに言ってるだけで特に反応ないような気がするんだけどな。
「実優ちゃんと一緒に来たんだ。それで夕食作ってくれた」
「実優が?」
聞いてなかったな、と呟きながらフライパンの蓋を開けた優斗さんがちょっと眉を寄せた。
今日のメニューは煮込チーズインハンバーグと海老フライにサラダ。
海老フライはもう揚げた状態であとは盛り付けるだけ。
「そのハンバーグ、チーズ入りなんだって。俺、すっげぇ好物なんだよね」
優斗さんの様子を見ながら軽く言ってみる。
「……そうだったね」
笑顔で優斗さんは返事してくれた、けど、いますっげぇ間があったよな。
その間はなんなんだろう。
「喉渇いたな」
ネクタイ緩めながらフライパンに蓋を戻した優斗さんが今度は冷蔵庫を開ける。
冷蔵庫には実優ちゃんが作って持ってきてくれた小さめのホールケーキが入った箱がある。
こっそり俺もさっき見たんだけど飾られたチョコプレートにばっちり"Happy Birthday 捺くん"って書かれてる。
「なんだこれ……」
優斗さんがそのケーキの箱に気づいて覗き込んで――少し固まって小さくため息をついた。
すぐに箱をもとに戻してミネラルウォーターを取り出す。
グラスについで飲みだす優斗さん。
ケーキのことでなにか言うのかなと思ってじっと見てたんだけど、なんにも言わないで俺の視線に気づいたら「どうしたの」って訊いてくる。
「え、いや」
実優ちゃんの手づくりケーキスルー!?
スルーしていいのか?
「あの実優ちゃんがデザート作って持ってきてくれたって」
「みたいだね」
「……」
……笑顔だけど、なんか機嫌が少し斜めってる気もする。
「なんか料理見たらお腹減ってきた気もする! 先食う?」
なんで斜めになってんだ!?
ちょっと焦って夕食の提案してみた。
「んー……捺くん」
「なに……?」
だけど真剣に優斗さんが見つめてきて、戸惑う。
「実優からなんか言われた?」
「なんかって?」
「……明日のこととか?」
帰り際の実優ちゃんの悪戯を思いついたような笑顔を思い出しながらへらへらっと誤魔化すように笑ってみた。
「……フライングで……お誕生日おめでとうー……とか?」
「……」
「……」
「そっか。やっぱりこれ実優が捺くんのために作ったんだね。あとで食べようね」
実優にもお礼を言わないとね、なんて優斗さんは笑顔だけど。
……すっげぇいま間があったよな。
『ゆーにーちゃん、結構独占欲強いよー』
なんて言ってた実優ちゃんの言葉に半信半疑だったけど……。
やばい……。
「捺くん?」
「へ?」
「……顔緩んでるよ。なに考えてたの?」
「へっ? あ、いや」
やっべー。
慌ててぺチぺチ頬を叩く。
叩いても緩みそうになってる頬を摩ってると、優斗さんが俺の方に近づいてきて――ふっと抱き締められた。
一週間ぶりの優斗さんの香り。
それだけで頭の中が痺れたみたいになにも考えられなくなる。
優斗さんは俺の肩に顔を埋めて、聞こえるか聞こえないかの小さい声で呟いた。
「――……俺が一番におめでとうって言いたかったんだけどな」
「……」
や、やっべー!!!
久しぶりの体温とそんな言葉とで一気に体温が上がって顔は熱くなるは息子は反応しかけるわで心臓がばくばくしてきた。
優斗さんの吐息が首にかかってぞくっとする。
動くに動けないでいたら優斗さんが少し動いて、俺の顔を覗き込む。
頬に触れて髪を梳くように潜り込んでくる指。
至近距離にある優斗さんの顔にドクドク身体が熱い。
俺を見つめる優斗さんの目に目が離せなくて、ごくんと唾飲みこんで。
なんでこんなに緊張しまくってんだ、俺ってくらいに動悸が激しくて。
「日付変わったら俺が一番に言うから」
なんて笑って――唇が触れてくる。
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