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第5夜 第50話

「……大丈夫?」 「ん……」  調子にのってヤりすぎて、まだまだ夜は長いのに腰が痛い。  ダイニングテーブルで食べる気力はなかったから、ローテーブルのほうで床に座り込んで夕食をとった。  それも優斗さんに「あーん」なんて食べさせてもらいながら。 「……俺ってガキっぽい」  口に放り込まれたハンバーグをもぐもぐ食いながら呟くと、隣に座ってる優斗さんがクスクス笑う。 「なんで?」  俺は優斗さんにもたれるように頭を肩に乗せて、脱力しきった状態で食ってるわけで。 「……食べさせてもらってるし。なんか……全体的に」 「そう? 俺的には猫みたいで可愛いよ」 「猫?」 「あれ、捺くんは犬派?」 「ううん、猫」 「俺も」  楽しそうな優斗さんの笑顔に俺も笑って、ぐだぐだな俺でもまぁいっか、なんて次は海老フライがいいってねだる。 「――明日、どうする?」  どれも美味しい料理に満足しながら食べ進めてたら優斗さんが顔を覗き込んできた。 「どこか行きたいところある?」  明日、あと二時間も経てば18の誕生日。 「……ない。ここでいい」 「そう?」 「……一日ベッドでごろごろ過ごす」  上目遣いで言ったら、目を細めた優斗さんが首を傾げた。 「体力持つ?」 「……若いし」  いまこんなバテた状態なくせにそんなことを言う俺に優斗さんが吹き出した。 「そうだね。じゃあ俺も捺くんに負けないように頑張らなきゃな」 「……優斗さんはもう十分だよ」 「俺はオジサンだからなー」 「……体力ありすぎ」 「そうかなあ」  他愛のないやり取りが、すっげぇ幸せだと思う。  俺も若さを見せて優斗さんにハンバーグを食べさせて上げながら――。 「あのさ、明日はここで過ごしたいけど、こんど旅行行きたい」 「どこに?」  ――……少しドキドキする。  ジュースの入ったグラスを手にしながら、さりげなく視線は料理に向けた。 「えっと……北海道とか、沖縄とか、アメリカとかイギリスとか、フランスとか……」 「それはまたいろいろあるね」 「世界制覇したい」 「楽しそうだね」 「とりあえず国内の近場からでもいいけど」 「そっか。でも……今年は捺くん受験だからなぁ」 「春休みからでもいいし」 「そうだね。でも沢山行きたいなら制覇するにも時間かかりそうだね」 「……別に時間なんていくらでもあるし」  ジンジャーエールを一気飲み。  炭酸がきつくてむせそうになるけど、ぐっと堪えて気合入れてみた。 「春休み終わっても大学生になって夏休みとか冬休みとか……。社会人になったら有給取るし」  俺の言葉に楽しそうに声を立てて笑う優斗さん。 「……何十年……いくつになったって……旅行できるし」  ……俺、今度から国語の勉強もうちょいしようかな。  なんか絶対いみわかんねー言い方になってる。  ため息が出そうになりながら――そっと優斗さんの手を握った。 「……ずっと……一緒にいるから、ずっと一緒に旅行いけるよね?」  勇気振り絞って。  男は気合だ!って、なんでもないことみてーに、言った。 「え? う――……ん」  優斗さんは笑顔で頷きかけて、止まった。  じっと俺のこと見つめてくるから、顔がめちゃくちゃ熱くなってくる。  あー、もう!  ちゃんと伝わってる……?、よな。  繋いでた手が、指を絡ませるものになって強く握りしめられた。 「……なんかそれってプロポーズみたいだね」 「えっ」  もっと顔が熱くなったけど、優斗さんの表情に心臓が止まるかと思った。  俺を見つめる優斗さんの目が優しすぎて嬉しそうで、心臓がギュッとなる。 「……あ、あの俺もっ、でっかい会社入って高給取りになってちゃんと旅行代金稼ぐからっ」  ばかみてー……な照れ隠し。  上擦った声で焦って言ったら、また吹き出されてそして抱き締められた。 「いろんなところ行こう。ずっと一緒にね」 「うん!」  ――優斗さんが帰ってくる前に、テレビを見てた。  テレビではある特集があってた。  それはウェディング特集で、俺には関係ないことだ。  チャペルでみんなに祝福されながら笑ってる新郎新婦の姿はとっても幸せそうだった。  ……結婚、とか全然いまの俺には現実味ねーし。  それに男同士だからそういうの関係ないし。  まぁどこかほかの国では同性でも結婚できるらしいけど――ぶっちゃけ"結婚"っていうものに興味ない。  俺はただ優斗さんと一緒にいられればそれでいいから。  でも……。 「優斗さん」 「なに?」  優斗さんにガキで馬鹿な俺ができること……そんなものないのかもしれない。  この人にしてあげられることなんてなにもないのかもしれない。  でも……優斗さんが俺がいるだけでいいっていうならずっと一緒にいるし。 「あのね」  ――"愛してる"なんて言葉は俺にはきっとまだ早いだろうけど。  だから今はこんなことしか言えないけど。  優斗さんの目を見て、笑って、そんで。 「大好きだよ」  それだけくらいしか、言えないけど。  ずっと一緒にいるよ。  って――神様に誓えるくらいには好きだから。 「……俺も」  大好きだよ。  って、優斗さんが微笑んで――キスをした。 第5夜 性少年の嫉妬 and another title ―――恋より深く END.

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