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第2話
夕食近い時間になって、俊介が姿を消した。
戻ってきたときには荷物を両手に提げていた。
「何だ、それ?」
俊介は微妙な顔をしていた。
「レヴァント夫人からのプレゼントです」
「小蓮から?」
遥は俊介のもとに駆け寄る。
まず出てきたのは濃茶のライダースジャケット。シープスキンで柔らかく、ダブル仕立てになっている。ファスナーがアクセントになっておしゃれだ。
「カッコいいー」
次に出てきたのが白のフルフェイスヘルメット。
「すげー。本当にツーリング行けるんだー」
気分が舞い上がる。
「それから、こちらもジャケットの下に必ず着てくれということでした」
無骨で丈の短いエプロンのような物だ。遥は首を傾げる。
「何それ」
「防弾ベストです」
絶句した。
俊介は淡々と続ける。
「ミスター レヴァントの敵は、レヴァント夫人も標的にする虞があるということです。同行するボディガードは連携の問題もありますので、ロシア側に一任することになりました。このベスト着用は、レヴァント夫人からのご要望です。明日は、レヴァント夫人の指示に必ず従ってください。よろしいですね」
俊介のいつにも増して真剣な眼差しに、遥は思わず息をのみ、無言でうなずいた。
ふっと俊介の顔が和らいだ。
「もう夕食の時間を過ぎておりますね。遅くなってしまい、申し訳ございません」
諒がすぐにテーブルに器を並べていく。
今日は和食だった。鮭の西京焼きに野菜の煮物、ほうれん草の胡麻和え、野菜のすまし汁。いつもは速いペースで食べられるのに、どうも箸を持つ手が鈍っている。
「俊介」
箸を箸置きに置いて、遥は俊介を呼んだ。俊介がすぐに姿を見せた。
遥は率直に訊ねた。
「昨夜、隆人が小蓮が武装していたと言っていた。俊介はわかったか?」
「お二方とも、少なくとも銃は装備しておいででした」
当然のように答えた俊介に、遥は目を瞠る。
「日本なのに?」
「昨夜の会食に、お粗末とはいえ刺客が現れましたでしょう?」
そうだった。レヴァントも隆人も余裕を見せていたし、俊介を信頼しているので、遥も緊張はほとんどしなかった。だが、銃を持った敵が入り込んだのは事実だ。
「レヴァント-ファミリーはただの複合企業 ではございません。裏の顔がございます。そして日本国内には関連企業が存在しております。当然、日本国内にも裏の根を張っているでしょう。同時にレヴァントに敵対する団体も同じように存在しております。ご夫妻が別行動を取るなら護衛も二分されます。そこを狙う者が現れないという保証はございません」
遥は俊介の淡々とした説明に、遥は頬杖をつく。
「俺は万一の時、小蓮のお荷物にならないかな?」
「そんな危険があるのならば、レヴァント夫人は遥様をお誘いにならないと思います。ロシア側のガードの規模は不明ですが、遥様を危険にさらさぬ自信がおありだと、私は考えております」
「どうして?」
俊介が一瞬の間を置いて答えた。
「昨夜の会話や本日の心配りから察するに、狼小蓮 様が、遥様を大変お気に召していることがわかりましたので」
俊介が小蓮のことをレヴァント夫人と言わなかった。普段過保護なくらい遥を守ろうとする俊介が、一人の男として小蓮を信頼すると宣言したも同然だ。
遥は小さく笑った。
「俊介がそこまで言うなら、俺は小蓮にすべてを任せておけばいいんだな」
「はい。そうでなければ、いくら隆人様がお許しになっても、御世話係が遥様のお側を離れることは、私の命を張ってでも阻止いたします」
「重いなぁ、俊介は」
呆れて言った遥に、俊介がうなずくように頭を下げた。
「それがお務めでございますから」
遥はふうっと息を吐いて、箸を取った。
「俊介が保証してくれるなら、俺は安心して出かけられる」
「明日は小蓮様と楽しまれますよう」
「ありがと」
遥は温め直すかと訊く諒に首を振って、食事に戻った。
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