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第4話

「小蓮、おはよう!」 「よう。似合ってるじゃないか」  大型のバイクにまたがったまま、ヘルメットのバイザーを上げている小蓮が片手をあげた。もう一台いるバイクは小蓮の護衛だろう。 「お待たせいたしました」  俊介が丁寧に頭を下げる。  小蓮が遥の全身を見て、うなずいている。 「誘ってくれて、ありがと――」  言葉が途切れた。  小蓮はレザーのツナギのライダースーツを着ている。昨日のチャイナドレスではわからなかったが、胸のあたりの筋肉があって、ウエストまわりは締まっている。腰は細めだがそれに続く太腿のラインが綺麗だ。スーツはそのなめらかな体の曲線を露骨に強調している。 「カッコいい……てか、色っぽい」 「色っぽい、はいらない」  小蓮が眉根を寄せた。  ヘルメットを被ると、差し出された手袋を受け取り、手にはめる。 「後ろに乗って、しっかり掴まれ」 「何処に行くの?」 「横浜だ。言って無かったか?」 「横浜?」  遥は気持ちが沸き立つのを感じた。  ヘルメットのバイザーを上げて、俊介に笑いかける。 「行ってきます!」 「お気をつけて……安全運転でお願いいたします」  俊介が頭を下げる。  そんな俊介に小蓮がぴっと親指を立てる。そんな仕草も決まっている。  遥はバイザーを下ろした。  小蓮がエンジンを始動させた。間近で聞くとすごい迫力だ。  小蓮に促され、サイドステップに足を乗せ、後部のシートに跨がった。小蓮の腰に手を回す。 「もっとしっかり掴まれ。落ちるぞ」  小蓮に両手を掴まれ、その腹にしっかり巻き付けられ、体が小蓮の背中にぴったりと張り付いた。  モーターの振動が全身に響いてくる。 「すげぇ……」  思わずため息まじりに声をもらしてしまった。小蓮がかすかに笑った気がした。  二台のバイクはロータリーを回ると開かれているゲートを抜け、マンションの敷地を出た。  それを俊介がその場に立ったままじっと見つめていたのを、遥は気づかなかった。  街中では速度が出ていなかったが、高速道路に入ると小蓮の影でもジャケットが風の抵抗を受けるのを感じた。 (俺、バイクに乗ってる)  気分が高揚している遥がふと周りを見ると、厳ついバイクに囲まれていることに気がついた。  昨夜の俊介との会話を思い出す。これはまずい状態ではないのか? 「小蓮(シャオレン)?」  声をかけると、察したように明るい声が返ってきた。 「心配ない。俺のチームだ」  驚いて訊き返す。 「チーム? 小蓮はチームを持ってるのか?」 「持ってる。俺がミーシャを護るためのガーディアン-チームだ。今日はオフだけどな」  小蓮の返事にまた驚いた。ミーシャというのはミハイル・レヴァントのことだろう。小蓮はその彼を守るチームのリーダーなのか。 「遥」  小蓮の呼びかけに遥は顔を小蓮に向けた。小蓮は意外なことを言った。 「俺のことは、ラウルって呼べ」 「ラウル?」 「俺の名前……プライベート-ネームだ。隆人には内緒な」  大切な秘密を打ち明けられたらしい。  遥は口角を上げ、大きくうなずいた。  スピードが上がり、バイクはハイウェイを疾走していく。傍らで青い海がきらめいている。 (海だ……)  小蓮の腰にまわした手に力が入った。

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