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第5話
順調に走行していたバイクが車線を変えたのは、小蓮が何か短い言葉を発した振動を胸に感じた後だった。どうやらチーム内では会話ができるらしい。
上がってきたチームのバイクが併走する。
その更に脇を、見知らぬバイクが追い抜いた。
その次の瞬間、対向車線で一台の車が制御を失って隣の車線に入り込んだ。その車は後続の車に大きな音とともに突っ込まれて、激しく路肩へ跳ね飛ばされた。
遥は全身が粟立つのを感じた。事故の瞬間を見たのは初めてだった。それと同時に、まさか、という気持ちがこみ上げる。
その時、さっき小蓮のチームを追い抜いたバイクが近くまで下がってきた。なぜか右手をあげ、再び速度を上げて走り去った。
対向車線の流れが止まり、救急車とパトカーのサイレンがどんどん近づいてくる。その音に身が竦み、小蓮に訊ねる。
「何かあったのか?」
「事故らしい。巻き込まれると面倒だ。先を急ぐぞ」
小蓮が振り向いて叫び、アクセルを噴かした。
バイクは高速を降り、一般車線に入った。
どこへ行くのだろう。住宅街の細かい路地をバイクは進んでいく。やがて学校のようなところの脇で止まった。
校庭に駆けだしてくるのはさまざなま人種の子どもたちだ。どうやらここはインターナショナルスクールらしい。
その子どもたちを、小蓮は真剣に見つめている。まるで誰かを捜しているようだ。
「どうしたんだ?」
「なんでもない」
小蓮が首を振った。
その時、小蓮の目の動きが止まったのがわかった。
視線の先には、まっすぐ走ってくるひとりの男の子と、その子を満面の笑みで迎え、抱上げる男がいた。男の子は、男に肩車されて楽しそうに何か話ながら、向かい側の道を去っていく。
小蓮の目がやさしい。
あの二人はいったい何者なんだ?
結局、二人の姿が視界から消えるまでその場に留まってから、小蓮が反対方向にハンドルをきった。
「大丈夫か?」
遥は小蓮の顔を覗きこんだ。
「大丈夫だ。なんでもない」
小蓮は笑顔だった。それがあまりに晴れやか過ぎて、かえって違和感を覚えた。
横浜の街中をバイクは進む。ちらちらと小蓮が街並みに視線をやっている。小蓮にとって、ここがたぶん思い入れのある場所なのだろう。
やがて赤レンガの倉庫群が見えてきた。バイクはお洒落なベンチの並ぶ一画で止まった。
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