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第7話

 海に目をやっていた遥の顔を小蓮がのぞいた。 「中華街に飯でも食いにいくか? 汚いけど美味い店があるんだ」  遥の気持ちが沸き立つ。 「中華街!? 俺、行ったこと無い」  駐車場に向かって歩き始めたところに、酔っているらしい若い男が近づいてきた。 「そこのキレイなお兄ちゃん達、俺達と飲まない?」  思わず遥は眉をひそめた。小蓮が遥を庇うように、前に出るなと手を出して遮った。  話しかけてきた男の後ろに、二、三人の学生らしい連中が固まってこちらを見ている。  男とわかってて声をかけてくる神経がわからない。  小蓮が舌打ちをし、伸ばしてくる手を払いのけた。 「何しやがる!」  男が怒鳴った。小蓮が身構えた。と、思った瞬間、男の体がふっ飛んだ。  見ると、小蓮のチームではない男が、にっこり笑って立っていた。 「大丈夫ですか?」 「大丈夫だ。いらないことすんな!」  小蓮が語気を荒げても、男は笑みを崩さない。遥は小蓮の背中に入るよう手で指示され、素直に隠れた。  小蓮の護衛たちが男の周囲を取り囲んだ。それでも男は穏やかな表情を崩さない。  緊迫した状況に、遥はごくりと唾液を飲み下す。  小蓮の背の筋肉が張り詰めている。  男が言った。 「そう警戒せんでくださいよ、小蓮(シャオレン)小姐(シャオチエ)。俺は彭鍾馗。この辺の連中を仕切らせてもらってます。ニコライの旦那から横浜に来られるって聞いて案内させてもらおうと思って……」  護衛のリーダーがスマートフォンで連絡を取ったようだ。小蓮と視線を交わしている。  小蓮がほっと息をついたので、遥も体の力を抜いた。  突然、小蓮が中国語で男と会話しだした。  そして男が、本当に嬉しそうににっこり笑った。 「中華街に行きたいんだ。案内してくれるか?」  小蓮たちの会話は、突然日本語になった。 「喜んで」  遥は小蓮を見上げた、驚きをそのまま口にした。 「ラウルは中国語も話せるのか?凄いな」 「俺のオヤジは中国人だ」 「でも、日本語もロシア語も英語もできるんだろ?」  俺は肩をすくめ、小さく溜め息をついた。 「根なし草だからな、俺は……」  その言葉に胸がぎゅっと絞られたような気がした。  男――彭に案内されつつ、中華街をそぞろ歩く。  逆から「中華街」と書かれた額の掲げられた大きな屋根付きの門を潜った。  門のこちら側はとても日本とは思えなかった。とにかく色彩が派手だった。そして人が多い。  「まずは関帝廟だな」  はぐれないように小蓮に手を握られて行ったのは、息をのむほどの立派な門構えの建物だった。  小蓮が買った、見たこともないくらいな長い線香に目を丸くする。線香に火をつけると、小蓮のするとおりに香呂に立て、手を合わせた。辺りは線香のもうもうとした煙で前が見にくいほどで、思わず手で払い、目をこすった。 「ラウルもお詣りとかすんの?!」 「まぁ、オヤジに連れられてよく来たからな」  煙に喉をやられたらしい。軽い咳がでる。小蓮はと見ると何事かつぶやきながら首をひねっている。 「ラウル、何ぶつぶつ言ってるんだ?」  顔を覗きこむと、ごまかすように笑っていた。

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