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第5話 ぼんじりと着流し(1)
「え、朔がいたの? わざとここ選んだのか、眞玄」
まったく朔の姿を見なかった浄善寺は、店のチョイスをしたのは眞玄だし、故意にバイト先訪問をしたのかと思った。
「そんなことしないですし。てか、浄善寺トイレ長いわ。便秘?」
「俺の前の奴がなかなか出てこなかっただけだ。で? 朔の終了時間聞いたの?」
「教えてくれなかった」
「ふうん……あ、また朔来たよ。俺聞いてやろうか」
先程注文した料理を、嫌そうにこちらに持ってくるのが見えた。
「朔、いつ仕事終わるの?」
答えるわけないじゃん、と眞玄はしらっと観察していたら、朔は意外にも簡単に、浄善寺の問いに答えた。
「9時だけど」
「なんで? なんで俺には答えない?」
納得行かなくてちょっと立ち上がった眞玄に、朔はぷいと顔を背けた。そのまま料理を置いて引っ込んでしまって、眞玄はちょっと眉間にしわを寄せた。
「素直じゃないなー。この前の件から、やっぱ距離が遠くなった」
「自業自得ってやつじゃ? まあいいじゃん。9時だって。あと一時間くらいじゃないか。……どうする?」
「送り狼でもしよっかな」
「いや、ちょっと待て。おまえの車ツーシーターなのに、乗れるわけないだろ」
自分でどうするか聞いておきながら、浄善寺は否定的な意見を出した。
「あー……浄善寺、徒歩で帰る?」
「……貴様」
低い声で呟いた浄善寺に、眞玄はすぐに「冗談だよ」と笑ったが、こいつならやりかねなかった。
……正直、
(朔には気の毒だけど、眞玄はこうと決めたら結構頑固つーか、しつこいから)
応援する、というのとはまた違う気はするのだが、多分何もないままに事態が収束することはないような、そんな気がしていた。
どうしても嫌なら、眞玄の方が体格は良いとは言え、女の子ではないのだから朔も全力で拒否するだろう。
しかし、朔の為に留年するなんて、馬鹿さ加減には本当にびっくりだ。そんなんで一年棒に振るなんて、浄善寺からしてみたらあり得ない。
(単位落とした言い訳かもしれんけど)
眞玄はどこまでが本気か冗談かの区別が難しい。
(大体、卒業したらどうするつもりなんかね。……三味線奏者にでもなりたいのかと思ってたけど、全然音楽と関係ない大学行くし)
眞玄は小学生からずっと続けている習い事がある。実は三味線が得意なのだ。しかし中学生くらいにもなると伝統芸能からロックなんかにも興味がシフトしてきて、かといって三味線をやめることもせずにギターも並行して弾くようになった。
何故三味線に興味を持ったのかは、よく知らない。小学生の時分から、結構渋い趣味だと思う。
(意外と和装のが似合ってたりする奴だけど)
そういう道には進まないのだろうか、と浄善寺はうっすら気にしていた。
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