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第4話 お品書きにないもの(2)

「んで? なに」 「昨日うさちゃんと話して、俺色々考えたんだけど。やっぱ俺、朔のこと諦められない」 「……なんの話」  うさちゃんというのは、朔の同級生だ。眞玄は知り合ったばかりだったが、結構親身になって恋愛相談を受けてくれた。 「朔が昨日から苛々してんの、俺ちゃんと知ってる」 「だからなんの話」 「朔と俺、両思いじゃない? って話だよ」 「……意味不明なんだけど」  朔は突拍子もないことを言われたような、胡乱な表現をした。  朔に対してというよりも、朔以外の人間に対して、下心のあるような言葉を垂れ流してきた眞玄としては、こんなことを言ったとしてもすぐに理解して貰うのは難しいのだろうと、なんとなくわかる。 「朔さ……もしかしてあのこと気にしてる?」  仕方ないので、ちゃんと補足しておくことにする。 「浄善寺のが可愛いって言ったのはねえ、本音っちゃ本音だけど、俺は朔に可愛さを求めてるわけじゃないから、いいんだよ」 「そんなん聞いてないし」  怒ってるのかな、とは思ったが、試すように朔ににじり寄る。起きたばかりの朔の匂いにどうしようもなくむらっとして、本音が口から漏れる。 「あ、たまんねぇ……朔の汗の匂い……」 「――やめんか」  もっと顔を近づけて匂いを確かめるようにすると、心拍数が上がった。すぐに朔の手によって近づけた顔を押しのけられたが、負けずに言い募った。 「ねー朔。俺昨日、うさちゃんに勇気づけられて、それで一大決心してここに来たんだよ。だから俺とちょっと、勢いでさ、一線超えちゃおう」  これが朔のドン引き案件が発生した大体の流れだ。  勇み足だったかな、と今は思わないでもない。 (そういや俺も、なんだかんだ言って男とはヤッたことないなあ……そういう心配かな? きっと朔も、ないよねえ)  眞玄は朔の代わりになるような相手はいないかと、かなり積極的にナンパを繰り返してきた。可愛いと思ったら男女問わずに、自分の求める何かを持っている人物はいないかと試行錯誤した。  それでもなかなか、自分の理性をごっそり持ってゆくようなフェロモンの持ち主には出会えない。妥協点が見出だせない。 (朔が別の男なんかと経験あったらヤダ。俺の獲物だもん)  自分以外の誰かが、やはり朔のフェロモンとやらを感じ取って、横から奪われたりなんかしたら、眞玄は何するかわからない。  だから、朔といち早く、既成事実を作ってしまいたい。  頭の中が、いやらしい妄想でいっぱいになる。 (朔のピアス付きの舌で舐められたら、そっこーで昇天しそう)  浄善寺がいつのまにか眞玄の目の前の席に戻ってきて、「注文してくれたのか?」と聞いたが、あらぬ妄想をしていたのでスルーしてしまった。

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