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第10話 夏祭り(1)
商店街のアーケードや、大通り、小路に至るまで、雑多な屋台が軒を連ねている。ここぞとばかりのぼったくり価格でも、祭りの雰囲気で財布の紐が緩くなるのか、結構繁盛していた。
「なーんで、男二人で祭り来ないとなんないの」
眞玄のコーデで着付けてもらった浴衣を身にまとい、今更な科白を吐いた朔に、その辺の屋台で買ったチョコバナナを持った眞玄は笑う。
「俺、朔のこと好きなんだよね。だから俺の物にしたくて誘ったんだよ」
あまりに直球だ。
思わず言葉を失い、その後誰かに聞かれたりしなかったかと、挙動不審になる。
「……最近の眞玄、なんなん? 前はそんなこと、俺に言わなかったのに」
朔が不審に思うのも無理はない。
眞玄が朔に対して方針を変えたのは、最近になってからだ。急にどうしたんだおまえは、という気持ちで一杯になる。
「あれ? 言わなかったっけ。うさちゃんに相談したんだー、朔のこと。そしたら、腹くくってストレートに当たれって言われて、そりゃそうだよなと思い至ったわけです」
そういえば、話したとか言っていたような気がする。その後の展開に、うっかり忘れていた。
(余計なことを……)
確かに眞玄のことを憎からず思ってはいるが、朔としては特に何の展開も望んではいなかった……多分。
結構保守的だな、とは思う。けれど本当に男同士で何を望むのか、という常識が朔の中にはあって、眞玄に対して何か感じても、どうすることも出来ないでいた。
「ねー朔。俺だって、色々考えてるんだよ。朔に遠慮して違う相手探してたけど、やっぱ無理だなって」
「別に俺、眞玄が欲しがるような人間じゃ、ないけど……」
どうしてそんなことを言うのか、本当に意味がわからない。しかも朔をどきどきさせる、三割増しの恰好で言われたら惑いそうだ。そんなことを思っていたら、いきなり違うことを言われた。
「りんご飴屋さん、どこかなー」
「それ旨かったっけ? 俺あんま食ったことない」
「幸せだった頃の思い出、みたいな」
眞玄は不意にわけのわからないことを呟いて、また笑った。
幸せだった頃とはなんなのか。朔にはよくわからなかった。
「あった! 買ってくるから、朔これ持ってて。食べてもいいよ」
そぞろ歩いていたら、りんご飴の文字を見つけて、眞玄は手に持っていたチョコバナナを朔に持たせて行ってしまう。
「チョコバナナ……ぬりぃんだよな」
食べてもいいと言われたものの、あまり好きではなかった。しかし小腹がすいていたので少しかじってみるが、やはりぬるかった。
「……朔、いいなあその構図」
りんご飴を二つ持って戻ってきた眞玄は、何故か意味ありげに朔をじっと見つめている。なんだ? と思ったら、
「バナナくわえてる朔、エロい」
いきなりシモネタを振られて、バナナを取り落としそうになる。それ以上食べるのが困難になり、朔は食べかけのそれを眞玄に突っ返した。
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