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第11話 夏祭り(2)

「じゃ、りんご飴と交換」  まったく気にせずにチョコバナナとりんご飴をチェンジさせた眞玄は、朔の食べかけにぱくんと口をつける。 (う……確かにエロいかも)  変なこと言う眞玄の思考に引きずられ、朔は思わず腰が引いた。妙な想像してしまった。そんなこと気取られたら、また何を言ってくるかわかったものではない。あえてそれを無視して、今しがた貰ったばかりのりんご飴を食べてみた。  なんだかなつかしい気持ちになった。 (幸せだった頃って、なんだろ)  考えてみたら、あまり深く眞玄のことを知っているわけでもなかった。浄善寺なら、知っているのだろうか。  少し離れたところで、和太鼓の音が聞こえる。  毎年さまざまなプログラムが組まれていて、どこかの園児達のダンスやら、出初式みたいなパフォーマンスがあったりと目白押しだ。もうすぐ神輿もやってくるのだろう。人に酔いそうだ。  ――ふと、  三味線の音が、聞こえた。それが聞こえる少し前に、場内のアナウンスで、なんとか言う地元出身の三味線奏者を紹介していたのが朔の耳に入ったが、良くは覚えていない。 (三味線……といえば、眞玄)  何気なく彼に視線をやったら、眞玄は何故か、りんご飴を持ったまま固まっていた。 「……眞玄?」  声をかけても、眞玄はその三味線の音がする方をじっと凝視して、動かない。 (気になるんかな……)  もう一度声をかけようとした時、眞玄が小さな声で呟いた。 「加納 上弦(かのう じょうげん)て言った?」 「え? さあ……有名なのか?」 「いや……一般人にはそこまで知名度はないと思う……ただ地元だからって、呼ばれたんだろ」  どこかいつもと様子が違う眞玄に、朔は戸惑った。なんか少し怒ってる? なんて感じたのは何故か。 「ちょっと傍行っていい?」 「……ああ、って、ちょ」  眞玄はいきなり朔の空いている方の手をきゅっと握って、音のする方向へ歩き出す。人混みではぐれないようにする為なのだろうが、結構これは恥ずかしい。 「ま、眞玄? 手ぇ離せよ」 「大丈夫、人はそんなに他人を気にしない」 「おまえは目立つんだよ!」  嫌がっている朔に気づいたのか、眞玄はぱっと手を離した。 「朔、怒んないで」  にっこり言われてまた恥ずかしくなる。眞玄の前だと、何故か沸点が低くなる。少し反省にも似た気持ちになった。ちょっとしおらしい態度になった途端、眞玄は楽しそうに、耳元に軽薄そうな男前の顔を近付けた。 「じゃ、次は人のいないとこでね」  ぽそっと吐息混じりに囁かれて、またぞくぞくんと腰に来た。  やはり甘い顔は見せられない。

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