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第14話 宵闇(1)

 祭り囃子が遠くで聞こえる。夏祭りはまだ終わっていなかったが、既に帰り道だった。 「朔、楽しかった?」 「んー……わりと。眞玄も、楽しかっただろ、さっきの」 「まあね」 「眞玄って、バンドとかじゃなくて、一人でも普通に演れるよな……」  何気ない朔の言葉に、一瞬眞玄は黙り込んだ。 「――そんなことないよ? ところでなんで俺の知らないうちに、酔っ払ってんの? 未成年のくせに」 「や、なんか……それと知らずに飲んでた」 「急性アル中とかやめてね。お酒は二十歳になってから」 「十月一日で誕生日来るし。あと二ヶ月ない」 「今気づいたけど、朔の名前って一日生まれだから?」  朔という字には、それだけで一日という意味がある。 「じゃねーの。単純な名付け」  朔はへらっと笑った。酔っ払っている。  なんだか先程のステージを観ていたら自己嫌悪してきてしまい、気分転換にドリンクを買った。少し気分が上向いたと思ったら、ソフトドリンクではなかったらしい。 「知ってる? 朔って違う意味もあって、新月のことを指すんだってさ。太陽を覆い隠す、暗い月。……でも朔は向日葵だね。浴衣、似合ってて良かった」 「何言ってるん、いきなり」  ちょっと照れることをさらっと言われた。 「じゃあ……眞玄の名前は? 真っ黒ってこと? ってそれじゃ意味わからんけど、まあ、響きが好きだよ、俺」  酔っているのもあって、普段なら言わないことも口にする。 「さあ、どういう意味でつけたんだか。そういや小学校の頃の宿題で、名前の由来調べてこいってのがあったけど、その時既に離婚してて親父いなかったから、聞けなかった」 「眞玄の親父がつけたん」 「らしいよ」 「なんかさっき見てて思ったけど、仲悪いの?」 「……悪い、わけじゃないけど。なんかむかつくんだよね、色々」  眞玄は苦笑して、少しよろけた朔を支えた。 「同族嫌悪ってやつじゃね」 「えー、なにそれ」  不本意そうな声が上がる。しかし、朔は思ったことをそのまま口にする。 「マジでそっくり。軽そうなとことか、顔の作りとか。普通、日本の伝統芸能やるような人間て、もちっとお堅そうなイメージなのにさ」 「まあ……俺は親父似だよね。それは知ってる。朔は? 誰に似てる?」 「うーん、じいちゃんの若い頃に似てるって……言われたことなら……」  しかし、何故だか途中から言葉が遅くなり、目がうつらうつらしてきた。眠そうだ。 「ほら、アパートまでもうすぐだから、歩いて」 「うー……眠い」  なんだかんだ言いながら歩いて、普段より随分時間をかけてアパートへ辿り着いた。

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