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第15話 宵闇(2)
「朔、水は?」
部屋に上がり込んで、浴衣のまま畳に転がっている朔に水を渡そうとしたが、本当に眠いのか受け取ってもらえない。
「寝ないで。……俺に襲って欲しいのかな」
冗談ぽく笑って言った眞玄に、転がった朔は目をこじ開け、唸る。
「だって、眠い」
「じゃあ、もう寝な。ちゃんと布団で。とりあえず浴衣は脱ごっか……暑いでしょ」
部屋の端に二つ折りにしてあった布団を広げてやり、するりと帯を解いて、朔の胸元に手をかける。
「眞玄、ちょ……」
「――あ、そうだ」
脱がされそうになって急に眠気が飛んだ朔に、眞玄は何かを思い出したように一度止まった。
「キス」
「…………や、あの……俺了承はしてないっつーか」
「キスだけ。他はしない」
囁いて微笑む眞玄は、距離が近くて朔の心臓に悪い。畳の上に、まるで押し倒されるかのような体勢になっている。それでもアルコールが入っているからか、抵抗しなきゃ、とかいう考えが朧気になる。
どうしようか。
このまま、眞玄のすることを大人しく見守ろうか。キスくらいなら、してもいいか。考え方がいつもよりオープンになっているのは、やはり酔っているからだ。
「朔の匂い……」
眞玄はなんだかとてもせつない言い方をして、朔に顔を近付ける。
唇が、触れるか触れないかの距離。吐息が肌にかかる。
「……いいの? 朔、俺続けちゃうよ」
抵抗されると思っていたのか、眞玄は確認するように問う。朔はアルコールで潤んだ瞳で、ぼんやりと呟いた。
「――俺は今、酔っ払ってるんだ」
「? うん……?」
「だからぁ、……今なら眞玄のこと、好きって言えそう」
予想していなかった言葉に、眞玄が固まる。
朔自身、何を言い出してるんだとうっすら思ったのだが、中途半端にそんなこと言っても仕方ないので、酒の勢いを借りてもう一度言う。
「俺と眞玄、両思いじゃない? って、話だよな?」
以前眞玄に、唐突に肉体関係を迫られた際に言われた科白を、そのまま口にする。
「朔、……朔、駄目俺、そんな目でそんなこと、朔に言われたら、……マジ理性ぶっ飛ぶわ。可愛すぎか!!」
浴衣の眞玄に押し倒されて、朔の方も色々な感情が渦巻いているなんて、多分眞玄は気づかない。
「叫ぶなよ……うるせ」
「――興奮した。ごめん」
更に距離が近付き唇が触れて、眞玄の体重が少しかかった。
「りんご飴の、味がする」
甘い唇をなぞるように舐め、ちゅ、と柔らかくついばんだ。少しだけびくんと体が動いたが、朔は抵抗しなかった。
舌についたピアスを舐めるように、ゆっくり口の中を探っていると、やがて反応があり、その舌先が眞玄の舌を追ってきた。そんなことをされて、自分の心臓がとても早くなっているのに気づいてしまい、どうしたものかと眞玄は迷う。
お互いの呼吸が混じり合う。
理性なんてどこにもない。
キスだけ、なんて、とても無理だ。
「朔、大好き……」
浄善寺には、肉欲に走るなと忠告されていた。けれど、今の状況でそれを言われても、正直難しい。
「ね、いい? ……俺優しくするからさ、絶対」
「……な、何が? キスだけって……言ったよな」
朔の戸惑った声には、しかし別の何かが混じっている。
「そうだっけ……」
「言ったよな?」
「ごめん、ほんとごめん、確かに俺言ったよね。だけど朔、俺もう無理。限界。朔とエッチしたいよ……ほら、朔だって、ちょびっと勃ってんじゃん」
キスで燻った体を指摘され、朔は思わず目を逸らす。眞玄の手が伸びて、熱を帯び硬くなったモノに布越しに触れた。
ぞくんとした。
「朔のこと、愛しちゃってんの。だから、」
「……マジで一線とやらを超えるん……」
どうして許容しようとしているのか、朔は自分でもよくわからなかった。酔いのせいだと思いたかった。
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