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第16話 体温(1)
ぎゅっと抱き寄せられて、視界が眞玄の藍染に占領される。普段付けている香水とはまた違った、とても良い匂いがした。
「これ、なんの匂い」
「白檀だよ」
先程帯を解いてしまって、はだけた朔の浴衣を更に剥くと、眞玄は匂いを嗅ぐように顔を近付けた。
「たまらん……なんなんだろほんと、これ」
「何が……」
「朔のフェロモン。俺の性欲を刺激すんのよ。白檀と混じって、これがまたヤバい」
わけのわからないことを言っている眞玄に、ほんのり眉を寄せて居心地悪そうに朔が呟く。
「俺、体臭とかある?」
「いい匂いがするんだよ。浄善寺はわからないって言うから、きっと朔が俺だけに発信してるんじゃない?」
「わけわかんね……」
なんだか恥ずかしくなって、眞玄の浴衣をきゅっと握る。どきどきする。こういう恰好をされると、朔も何故か眞玄に対して興奮してしまう。
(やらしそうな、体)
細身なのに適度に筋肉をつけた眞玄の体。前に着流しの片袖を抜いて歌っていた時にちらっと見た、大胸筋とか腹筋とかがたまらなくセクシーだった。
眞玄はこれまでたくさん、朔の前で男女問わずにナンパを繰り返してきた。多分いろんなことをやってるんだろうなあと想像したら、心がちりちりとする。
「眞玄、俺とどうしたいの……エッチって、具体的に……俺よく、わかってないんだけど」
女の子と付き合ったことならあるが、男同士で何かをした試しはなかった。言われた眞玄は、少し考えるようにしてから、ごそごそと浴衣の袂を探った。
「ここに未使用のコンドームがあります。ということは、あれだ。朔の中に俺のを挿れちゃいます。勿論その前にも色々します。可能なご要望があれば、それも採用しつつ」
ふざけたような声で説明をしている。確かに具体的にとは言ったが……
「……持ってたんか、それ。そんなとこ隠して」
「備えあれば憂いなしかなーって」
「てゆーか、挿れちゃいますって、なんだよ。どこにも入んねえよ」
自分で言ってて恥ずかしくなった。肌を合わせているだけでも充分恥ずかしいのに、中に入ってこられたりしたら、朔は一体どうなってしまうのだろう。
「大丈夫だから、俺に体、預けて。やり方は一応わかるから、朔、心配しないで」
「……そりゃ、眞玄は……男とだってしたことあんだろうけど……俺はないから」
「え? 俺もないけど?」
意外な言葉が返ってきて、朔は戸惑う。
ではこれまでのナンパはなんだったのか。可愛かったら男でも構わず声をかけていた、あの行為は一体なんなのだ。絶対やりまくってると思ったのに。
「や、だからあ……ピンと来る相手がいなかったから。そんな無節操に最後まで行かんでしょ。俺そんなヤリチンに見える?」
「見えるよ。誰でもそう言うと思う」
「……男は、朔だけ」
男は、というのは気になったが、眞玄も21になる男なのだし、女の子と何かしていてもおかしくない。おかしくない、というより、軟派臭だだ漏れの眞玄が、誰とも何もないなんて言われた方が、違和感があった。
また朔の匂いを確かめるようにして、眞玄は耳朶を甘噛みした。
「眞玄って、なんでそんな距離が近いんだよ……」
「エッチすんのに、距離取ってどうすんの」
心臓の音が聞こえそうな距離に、朔の動悸が激しくなる。それでなくとも、なんでこんなことになっているのか、よく理解も出来ていなかった。
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