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第17話 体温(2)

 本当に、最後までする気なのだろうか。 「眞玄は今以外にも、普段から誰にでも近いじゃん。勘違いする奴とか、絶対いるし……おまえの声耳の傍で聞くと、ぞくぞくするし」 「心配しなくても、朔が俺の物になってくれれば浮気なんかしないよ」  面白そうに小さく笑んで、自分の帯も解く。藍染の下から覗いた肌は、中まで少し日焼けしていて、やけにまぶしく朔の目に映った。 「眞玄の体……マジやらしい」 「――そぉ? これからもっとやらしいこと、いっぱいしちゃうよ」 「なんかずりぃの……」  朔の下半身に顔を寄せながら、ぽそりと耳にした呟きに「何が?」と眞玄は不思議そうに聞いた。 「ずりぃじゃん」 「……ん? 何? ……ああ、もしかして、アレなの。朔も男の子だからってこと?」 「…………まあ……」 「えー……俺に一体ナニさせようとしてんの? 朔こそエロいわ。この俺にブチ込みたいとか、そういうこと、かな?」  非常に言いにくいことを、さらっと指摘されて顔が熱くなる。 「もちっとオブラートに包めよ!」  眞玄は苦笑いして、考えるように何秒か黙り込んだ。 「駄目だよ。これは俺が言い出したんだから、俺に主導権があんの。だから、そういうのは……また、今度ね」  眞玄は自分本位なことを言って、目の前で勃ち上がっているモノに唇をつけようとしている。けれど汗とかかいただろうし、という抵抗感から、朔は慌ててそれを制止した。 「ちょっと、ちょっと待て! 風呂とか! ……入んねえの……?」 「――興奮するでしょ、入らない方が」  止める為に伸ばされた手をきゅっと握って退けると、そのまま朔を口に含んだ。  興奮するなんて、そんなのは困ってしまう。ぞくぞくして仕方ない。  さっき眞玄は男とはしたことないなんて言っていたが、本当だろうかと疑いたくなる。結構上手に朔を攻め立ててくる。壁に背を預け、一人用の狭い布団の上で眞玄にしゃぶらせている姿というのは、客観的に見てどうなのだろう。  恥ずかしい。  壁越しに、隣人に妙な気配を察知されやしないかと心配になったが、そういえば隣は空室だったのを思い出した。 (よ、良かった……やべぇよこんなん)  倫理的にどうなのだろう、とか、今後眞玄なしでいられなくなったらどうしよう、とか、余計なことがぐちゃぐちゃと交錯する。 「な……眞玄、さっきさ……ステージの上で親父と揉めてなかった?」  関係のないことを言った朔に、楽しそうに舐めていた男はふと顔を上げる。壁に寄りかかっていた朔の体を引いて後ろから抱き込み、うなじの辺りに唇をくっつけた。その唇の感触に、またぞくぞくした。 「……内容、聞こえたのか?」 「聞こえなかったけど……眞玄、めっちゃ睨んでたから。ああいう顔、するんだな」  普段から常にチャラいので、眞玄のあんな表情を見たのは初めてだった。 「上弦の野郎がちょっと、気に入らないこと言うもんだから」  自分の親を名前で呼んで、笑う。笑いながらもそのままぎゅっと体を密着させて、また何かごそごそやっている。 「ローション持参です。……力抜いてて。朔のここ、俺が入れるように……拡げたげる」  浴衣の袂に一体何を仕込んでいるのだ。ぬるっとした指の感触が唐突に触れて、びくんとなる。  けれどそれについてコメントするのもなんだか嫌で、あえてまた先程の会話を続ける。 「気に入らないって、何を、……っ、言われたん」 「んー……大学やめちまえとか、まあ、そんなん」  眞玄の指が入ってきて、体がぶるっと震えた。濡れているから痛みはなかったが、とても変な気分になる。

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