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第25話 経糸、緯糸(1)

「何にやけてんの気持ち悪い子だね」 「……あー、ごめんにやけてた?」  ふと祖母に言われて、我に帰る。色々考えていたら、またしても性欲が暴走しそうになっていた。 「あれ、俺スマホどうしたっけ……」  そう言えば、と眞玄は昨日からマナーモードにしたまま全然チェックしていないことに気づいた。結構普段から依存しまくりのツールだが、朔のことで頭がいっぱいで、放置していた。部屋に置きっぱなしだったそれを持ってきて、つるつると指を動かしSNSの内容を確認する。 「眞玄、お昼の洗い物頼んでもいいかい?」 「うん、ばあちゃん……俺がやるからちょっと置いといて。これだけチェックしちゃうからー」  食事を出してもらっている身としては、片付けくらいはする。 「んー……と」  浄善寺から、「お祭りどうだった?」なんて短い文章が送られてきていたので、とりあえずそれに対して「首尾は上々です」とだけ返す。  お友達登録のある人がたまたま昨日の即興三味線ライブを見ていて、動画を撮ってアップロードしたURLを貼り付けていたので、ちょっと見てみる。結構コメントが付いており、好意的な意見が多くほっとした。自分勝手にやっているように見えても、眞玄なりに周囲の反応はやはり気になる。  準備なしにしては、まあ上出来だ。 (もうちょっと違うアレンジの方法もあったなあ……次に活かそう)  元々三味線用にアレンジを用意していたわけではなく、その場の勢いで弾いたものだから、あとから見直すと反省点もある。正直ウォーミングアップくらいしたかったが、いきなり上弦に喧嘩を売られるような真似をされたので、ぶっつけ本番だった。  普段はライブハウスという閉じた空間での演奏だが、今回は自分を知らない人達の方が圧倒的に多い、野外ステージだった。内心緊張感もあったものの、そういうのはなんとか顔に出さずに出来たと思う。  あの場ではアウェーでなくて良かったなどと口にしたが、まったくのアウェーであってもちゃんと出来なければ意味はなかった。 (新規さん増えると嬉しいけど、どうかなあ)  動画をアップしてくれた人にお礼のコメを付けて、自分のタイムラインに貼り付けておいた。とりあえずその他にも色々入っていたメッセージにさくさく返信して、食器を洗う為に立ち上がった。  今日は昼前からバイトに入ると朔が言っていた。慣れないことさせたので、体力的に大丈夫かな、という心配はあった。バイト先は、先日浄善寺と行った和風ファミレスだと確認してある。3時上がりだと言っていたが、終わる頃にでも行ってみようか。  本当なら、相談に乗ってくれたうさちゃんにも、今回の件を一言報告してやりたかった。  しかし朔から箝口令が敷かれてしまった。あまりそういうことをオープンにしたくないらしい相手を慮って、非常に残念ながら報告はしない。朔とエッチしたよ! と画面に打ち込みたいところをぐっと我慢している。 (秘密の恋愛ってあんま得意じゃないけど)  仕方ない。朔は男だし、色々不都合もあるのだろう。  それでも、浄善寺にはちらっと言っておくべきだと思う。同じバンド内で隠しおおせるとも思えなかった。無理だ。というか、言わなくても気づくだろう。さっき首尾は上々と返信したが、それでどこまで深読みするだろうか。 「眞玄、あとで音緒に浴衣着せておやり。おまえの小さい時のがあるから」  考え事をしながら食器を洗っていたら、背後に小さな浴衣と帯を持った祖母が立っていた。濡れた手を拭いて、それを受け取る。 「良く取っといたね、こんな小さいの」 「祭りの最後に花火やるから、連れていったらどうだい」 「……至れり尽くせりだね、ばあちゃん」 「上弦が親としてろくでもないのは知ってるからね。眞玄だって、知ってるだろう? おまえと同じ思い、させんじゃないよ。血の繋がった弟なんだから」

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