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第24話 恣意的でなく意図的に(2)
昨夜は確かにまた今度、なんて期待させるような引きをしたかもしれないし、朔が自分に対してそんな欲望を抱くなんて意外で、その意外性に若干身悶えたのは事実だ。
けれど、実際にどうするかというと、それはまた別問題だった。眞玄は自分がそういう対象になることは、まったく想定していない。
ずるいと言われても、プランにないので仕方ない。
「……なに。朔は、俺のバック奪いたいの? やらしーわマジで」
「おまえが言うか!」
ちゃぶ台に頬杖をついて、わざと呆れたように言った眞玄に、ごもっともな突っ込みが入る。やはり煙に巻くことは無理かと嘆息し、眞玄はがっくりと首をうなだれた。
「待って待って……朔、俺はねえ、そういうシチュエーションを、どうにも想像出来ないんだよ」
「俺だって、昨日みたいなことは想像出来なかったよ。お互い様だろ」
おっしゃる通りだ。
眞玄は「うーん」と唸って考えて、しばらくしてからようやく答える。
「じゃあ……こういうのは、どうだろう。朔に課題を出すから、それをクリア出来たら、俺のこと好きにしてもいいよ」
課題、と言われて朔が不審な顔をした。
「……どうゆうこと」
「朔さあ。俺が納得するような曲を、一人で作ってみて。途中経過で俺や浄善寺に意見聞くのはいいけど、手伝ってもらったら駄目。歌詞は書いても書かなくてもいいから、とりあえず作曲してみ」
思いもよらない展開に、朔は戸惑ったように見えた。
こんなのは確かにずるい気はした。何で交換条件を出しているのだろうか。
「…………無理ゲーなんだけど。それ、クリアさせる気ないだろ」
「無理って言わない。朔の悪い癖だよ、それ」
ネガティブな口癖を指摘され、朔は少し黙り込んだ。
「こういうのは期限を設けた方がいいから、とりあえず九月末で締切ね。どうする」
猶予は一ヶ月と少しあったが、出来るかどうかはわからない。眞玄としては、特に期限を設けなくても良かったが、だらだらやられても目標を見失う。そして九月末という設定にも、実は意味があった。朔は気づいたろうか。
「……やっぱ眞玄って、ずりぃ」
拗ねたように呟かれ、眞玄は少し意地悪な微笑みを浮かべる。
「これは朔の成長を願ってのことなんだよね。やり遂げたら、表現力上がるから、絶対。昨日俺がバンドにこだわる理由言ったの、覚えてる?」
「……普通、あんなことになってる時に、言うかよ」
「朔の体に刻んだの。俺の言葉を」
この課題がどう転ぶのか、眞玄にも実際にはよくわかっていなかった。かと言って、けしてクリア出来ない無理ゲーとやらを仕込んだわけでもない。
朔は結構すぐに、出来ないとか無理とか口にする傾向があって、その点が以前から気になっていた。だからライブ中もあえて色々と朔に対して無茶振りしたり、彼が「無理」と思えるようなことでもなんとかクリアさせるように、仕向けてきた。何を馬鹿なことやってるんだ、と周囲には見えるかもしれない。だがそれは眞玄が意図的に仕組んでいることだ。
そのおかげというべきか、朔がプラグラインに入ったばかりと今を比較すると、だいぶ変化している。度胸も以前に比べたらついてきた。
朔には成長して貰わないとならない。自分の目的の為に、それは必要なことだ。
その為のご褒美としてなら、不本意ながらこの体を賭けてやっても良かった。確かにずるいのかもしれないが、朔は不承不承「わかった、やってみる……」と頷いた。
(でもやっぱ……俺がそういうのは……、あー……やっぱ想像出来ない。困った)
自分が朔の目にどんなふうに映っているのかなんて、眞玄にはよくわからなかった。
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