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第27話 向日葵と太陽(1)

 夏祭り二日目にして最終日。日が暮れる頃に花火が上がる予定だった。まだ時間的に余裕があり、朔のバイトする和風ファミレスに音緒を伴ってやってきた。 「ちょっと中であんみつでも食べよっか」  駐輪スペースには、朔のベスパが置いてあるのも確認したし、もう少しすれば終了時間も来るはずだった。都合がつけば、また朔を連れ出したい。一緒に花火を見たかった。  店内に通されオーダーの際御用聞きに来た店員は、眞玄と音緒を見比べて、変な顔をした。 「眞玄……、隠し子?」  端末を持った朔は、妙なことを口走る。思わず苦笑いが出た。 「あんみつ二つね。あと隠し子じゃなくて、弟。俺も今日存在を知ったんだけど、家庭の事情でさあ、しばらくうちで預かることになった。ほら音緒、自己紹介」 「かのうねおです。4さいです」 「えっと……遠藤朔です。19歳です」  ちょっと困惑しながらも、音緒と同じように自己紹介した朔を見て、眞玄は笑う。 「ねー朔、バイト終わったら花火見に行こ? お祭りの最後にやるじゃん」 「ここからどうやって行くん……三人だろ?」  以前眞玄の車は二人しか乗れないことを、朔に告げていた。しかし今日の眞玄はいつもと違う。 「今日はねー、俺の車乗ってかれちゃったんで、ないんだよね……今度二人の時に、乗せたげる。だから替わりにセルシオで来た」 「セルシオ……一体どっから出てきた」 「上弦の車。明日の朝までに戻さないとまずいから、お泊まりは出来ないけどー」 「……そういう発言、慎んで」  恥ずかしそうに視線を外して、あんみつのオーダーを入れると朔は一旦引っ込んだ。眞玄も小さい子の前で何を言っているのか。子連れでお泊まりも何もあったものではない。 「ねーまくろ、花火は?」 「暗くなったらね」 「ママはいつかえってくるのかなー」 「……そうだなあ。俺にもわからない。寂しい?」  ふと振られた話題に、眞玄は少しだけ沈黙したが、すぐに返した。小さな頭の上にぽんと右手を置いて、撫でる。 「パパも、ねおをおいてくんでしょ」 「そうだね。でもばあちゃんと俺がいるよ。ちょっと我慢なー。男の子だろ?」 「……うん……」  子供を最優先出来ない上弦を、責めることはしない。たまに複雑な感情が入り交じり、上弦に対して素直になれないが、何故か彼はそんな眞玄を楽しそうに見る。まだまだ未熟な自分を、余裕で上から見ているのだ。知ってる。 (だけど未熟ってことは、伸びしろがあるってことだもんね……)  ともあれ、そういう上弦の家族に対する優先順位が、離婚の一端を担っているのかもしれないし、眞玄はその犠牲になったとも言える。けれど、芸事に命をかけるのは、それだけ真剣ということだ。  気持ちは、わかる。 (人としてどうなん、とかはあるけど……俺も一緒だから)  そういうのを優先させたい自分がいるからこそ、朔にあんな課題を出せるのだ。  自分はそんな駆け引き一切なしに、朔を抱いた。好きで好きで自分の物にしたい欲望を朔に押し付け、結局は我を通した。  それなのに、フェアではない。課題クリアなんて意地悪をせず、朔がそれを求めるなら体を開いたっていいのでは、とも思う。 (いや、単に俺が受身はやだってのもあるけど……どうしよう、マジ想定外)  しかし朔もその提案を納得し、課題に取り組むというなら、眞玄としてはとりあえず見守るしかない。前言撤回する気はない。  朔が運んできてくれたあんみつを口に入れながら、眞玄はため息をついた。

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