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第31話 朔(2)
失いたくない、なんて言われるような大層な人間ではない。どうして眞玄はそんなふうに言うのだ。わからなかった。
「別に俺は……それこそ代替え可能じゃねえの」
「だって朔が頑張ってるの、俺は知ってるもん。随分上達したって、浄善寺だって言ってるよ」
「……そうなん……」
「あとは……朔はあの時、一人だったよね。朔は普段人懐こいってイメージだけど、何故だか孤立してたよね。……どうしてか、聞いていい」
朔がプラグラインに入った経緯。
それは単に、メンバー抜けによるベーシスト募集に乗っただけなのだが、そうなる前、朔も違う仲間とバンドを組んでいた。
けれど、結局はその輪から抜けて、一人でいたのだ。だからこそ今ここにいるのだが。
「……方向性の違い?」
「本当に?」
「そういうことにしといてくれよ」
「……そ。まあいいか。でね、俺って両親がアレなもんで、口にはしないまでも結構な疎外感を抱いてたわけなんだけど……なんとなく、朔に同じ空気を感じた。今もたまに、そういうの感じる」
眞玄と浄善寺の関係に対して抱いている感情を言っているのだろうか、と朔はぼんやり思った。
疎外感。
確かにそうだった。
朔が知らない時間を、長く過ごしたという現実。それがどういう間柄だとしても、関係ない。埋めることの出来ない何かが、そこには存在するのだ。そんなことを考えても仕方ないのは百も承知だった。
隠しても駄目か、と朔は思い直した。眞玄に隠していても、多分見透かされる。
高校の時に組んだバンドは、同じ学校の同級生とだった。
朔の中学から来た人間は学校自体にあまりおらず、なんとなく存在が浮いていた気がする。それでも友達は作りたかったし、なるべく心をオープンに保ち、誰とでも打ち解けるように努力した。
楽器をやること自体は楽しかったが、それでもなんとなく疎外感を持つ。自分の知らない話題を頻繁に出され、相槌を打つだけというのはなんだかつまらない。
けれどその積もり積もった不満が、相手に伝わり結果的に上手く行かない。本当にくだらないことがきっかけで、人間関係に亀裂が入る。塵も積もればというやつだ。
みっともないと思う。小さい男だ。だから言いたくない。
自分の性格が嫌になり、適当に取り繕った結果、表面上だけの仲の良い友達、というのが増えた。相手が何を望むのか考えて行動し、仲良くなった気になって。媚びてるみたいで嫌だった。
なんだかむなしくなった。
だから楽器に没頭した。ベースの低音は、朔に優しい。
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