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第32話 朔(3)

「俺は未熟なんだよ人としてさあ。だから、人間関係があんま円滑に行かない。人懐こいなんてのは、うわべなんだ。向日葵なんて、だから似合わねえの」  運転席から眞玄の左手がふと伸びて、自嘲気味の朔の頭にそっと触れた。 「ね、朔。朔は新月の意味があるって、俺言ったじゃない。新月の夜はさ、確かに足元も暗くて少し不安になるけど、それはこれから満ちて行く為に必要なステップなんだよ。新月は次第に上弦の月に変わって、やがて満月になる。わかる?」 「眞玄ってたまに……、言うことが……なんというか」  眞玄は作詞もするし、まあ多少は恥ずかしいことも言うかも、なんて朔は思った。そして上弦の月、と言われ、眞玄の父親をふと思い出した。 「今後の朔に期待ってことだよ」  眞玄は静かに言って、またペットボトルに口をつけた。  色々と話している間に、朔のバイトする和風ファミレスの駐車場に到着した。まだ閉店時間には間があり、照明は煌々と点いている。あまり目立たない端のところにセダンを駐車した。 「着いたよ」 「……うん。サンキュ」  シートベルトをもたもたと外しながら、それでも朔はなんとなく助手席から離れ難い雰囲気だった。 「どうした? ……おやすみのキスでもしちゃう?」 「眞玄の行動って、結構甘々だな……」  薄暗い車の中で眞玄は小さく笑んで、一瞬だけ眠っている音緒を確認してから自分のシートベルトを外すと、助手席に体を伸ばした。浴衣の擦れる音がして、顔が近付く。 「朔は寂しがりやだね。……これは、寂しさの匂い?」  なんて甘い声で囁く男なのだろう、と朔はどきりとする。相手が朔だからなのか、常にこうなのか。多分後者だ、と思ったが今は指摘しないでおいた。 「知るかよ」 「朔の舌ピ、エッチで好き」  甘噛みするようなキスをして、すぐに離れる。 「今日はこのへんでやめとこうか。こんなとこでまた性欲爆発させちゃうと、色々不都合だもんね。……気をつけて帰ってね。おやすみ朔」 「……おやすみ」  お互い物足りなかった。  けれど仕方ない。今夜は音緒もいるし、帰らなければならない。そして明日眞玄は少し遠出する予定があった。  二日間に渡る夏祭りも終わり、上弦が音緒を残して翌朝一人で戻っていった。人の車を勝手に乗っていって、「いやあ、オープンカー楽しいわ」と眞玄にキーを返して寄越した。単に乗ってみたかっただけのようだ。  まあこちらとしても今回に関しては、二人乗りの車でなくて都合は良かったのだが、一言声をかけてから乗っていってくれと言いたかった。

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