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第38話 取捨選択(1)

 昨夜眞玄と一悶着あった浄善寺は、なんとなくもやっとしたものをもて余していた。  かといって、あっさり謝罪するという選択肢は彼になく、自室で悶々とパソコンを弄っていた。  アマチュアバンドとはいえ、ライブ告知や曲紹介なんかを載せたブログを作成している。それなりに固定客がいるし、新規が増えるのは実際嬉しい。  ライブ中、眞玄は参考の為にといってビデオカメラを回しておくことがある。眞玄は自撮りが大好きだが、けしてナルシストではない。軟派だが、それは意識してやっていることではない。昔からあんな感じだ。  本当に単純に参考の為に撮っている。手元にあるそのデータを、参考ついでに動画サイトにアップし、リンクをブログに貼る。  その動画を、浄善寺は先程から客観的に見つめていた。 (俺もまあ、それなりに巧いんだけどね……知ってる)  自分の演奏している姿をぼんやりと見ていた。  巧いが物足りない。自分の弱点を知っている。いかに正確にリズムを刻もうとも、それは単なる「作業」となり、そこにいるのが自分でなくてもいいのではないかという結論に至るのだ。  機械的だ。  けれど眞玄は、違う。替えがきかない。  だから、眞玄個人に声がかかるのは納得出来る。自分が傍にいる必然性を感じないので、昨日はあえて突き放してみた。  浄善寺にしてみれば、わざと喧嘩みたいなことになった節がある。  それに音楽で成功するなんてのは、現実的ではなかった。手堅く生きたいのだ。しなくて良い苦労を、わざわざすることはない。 「……ん? 朔だ」  スマートフォンが鳴っているのに気づき、拾い上げる。 「どうした? ……あそう。じゃあ、おいで。家にいるし」  暑いし出掛けるのも億劫だったので、なんだか話したそうな朔を部屋まで呼びつけた。また眞玄が何か余計なことでもしたに違いない。 (変な相談だったら、どうしよう)  どうやら肉体関係を持ってしまったであろうことについて相談されても、浄善寺としてはアドバイスも何もあったものではなかった。  二十分ほどで浄善寺の家までやってきた朔は、陽射しの眩しさからサングラスをかけていた。愛機のベスパが玄関脇に停めてある。 「朔、髪切った?」 「あちいから、襟足ちょっと。あと染め直したけど」 「確かに暑いな……まあ上がれ」  その手に差し入れらしき袋を下げた朔を、きれいに掃除の行き届いた家の中に招き入れる。 (朔の外見って、こういったらアレだけど、少しヤンキーテイストだよなあ)  ピアスが沢山開いているし、眉の形が自我を主張するような感じに整えられている。バンドをやっていなかったら、もしかしたら浄善寺とはあまり関わりのないタイプかもしれない。中身はそうでもないが。  朔は何故だか、浄善寺にはなついている。心当たりはないが、悪い気はしなかった。 「なに、なんか言いたそうなんだけど。……もしかして眞玄、なんか言ってた?」 「いや別に。朔って、わりと尖った外見してるなって思っただけ」  言っていたのは事実だが、余計なことは拗れると嫌なので言わない。朔はなんとなくほっとしたように、少し緊張気味にも見えた表情をゆるめた。

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