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第39話 取捨選択(2)

「で、今日はなに?」  自分の部屋に入れてやり、適当に座るよう勧めながら切り出す。 「曲ってさー、どうやって作ればいいのかな?」 「……俺の場合、大抵PCでソフトとか使って、音を入れてくけど。朔はそういうの、わかる?」 「わかんね。パソコン持ってないし」  浄善寺からすると、PCもなくてどうするんだ? 曲作り云々でなく、不便すぎやしないか? という考えだったが、そんなこと言っても仕方ない。 「あ、そう……んじゃ、ベース弾きながら、頭に浮かんだフレーズでも、紙に書くとか、スマホで録音しとくとかして……まとめてみ。朔はベースだけだっけ?」  普段は朔のエレキベースしか耳にする機会がないが、他に何か出来たろうか。ちなみに浄善寺は、ドラムス以外の楽器はあまり触らない。打ち込んだデータを出力すればいい。極論から言えば、自分が叩く必要性もあまりない。  それでもドラムスに向き合うのは、決められたリズムをいかに正確にトレース出来るか、というゲーム的な要素を楽しむのと、体に直接響いてくる振動が心地好いからだ。 「アコギとウクレレ一応持ってるけど……普段はあんま触らない」 「ウクレレ……? なんでまた」 「見た目が可愛かったから」 「……まあ、自分が使いやすい楽器でいいと思うよ」 「漠然としてるな……」  朔はちょっとため息をついている。しかし浄善寺にしたって、難しい質問だった。 「こういうのって感性だし、口で説明しろと言われてもね……急にどうしたの?」 「眞玄に課題出されたんだけど……やってみるとは言ったものの、やり方がよく、わかんなくて。眞玄今日どっか遠くに出掛けてるみたくて、聞けないし、浄善寺なら……教えてもらえるかなって」  少し言いにくそうに、朔はぼそぼそと呟いた。 「ふぅん、課題……」  一体何をしているんだろうか? よくわからない。また朔に無茶振りしたのか。 (意図した無茶振り、か……ふざけてるわけでは、ないのか)  ふざけているようにしか見えない、なんて昨日言ってしまったが、眞玄にしてみたら朔のレベルアップを図っているのかもしれない。 「……あ、朔もしかして、眞玄に今後の方針とか言われた? 俺はそれで昨日の夜、奴と揉めた。眞玄のこと久々に怒らせたよ」 「え、……なんで揉めるん」  意外そうに、朔はちょっと下を向いて考えていた顔を上げる。 「意見の相違」 「浄善寺は、プロ云々て話は、否定的なのか」 「現実的ではないと思うよ。眞玄が一人でやればって、言った。……まあ、朔は朔の意見あるだろうけど」  朔とも特にこういった話をしたことはなかった。大体眞玄は今まで自分がどうしたいのかを、話したりはしなかったのだ。何故突然言い出したのかも、よくわからない。 (朔をモノにして、浮かれた勢いじゃなかろうな)  そんなんで振り回されるのは非常に癪だった。  当事者でもある朔は、不思議そうに浄善寺を見た。 「俺、浄善寺は肯定派かなあと思ってた」 「何故」 「だって、眞玄と一体何年、一緒にいるんだよ?」 「……何年、と言われると。トータルで十二、三年……? くらいか。言っておくけど、たまたま学区が一緒で、ただの腐れ縁だがら」 「やなら、続かないじゃん。取捨選択て言葉知ってるだろ?」 「そりゃ知ってるけど。ところでその手元にあるのは何」 「……あ、これ差し入れ」  袋から二種類のパピコを取り出して、どっちがいい? なんてやっている。 「んじゃ、半分に割って両方。こういうのは取捨選択?」 「違うと思うよ……シェアだろ」  ぱきんと割って、二種類の半分こずつを浄善寺に渡すと、朔はパピコを口にした。暑かったし折角なので、浄善寺もそれに倣う。

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