39 / 70
第39話 取捨選択(2)
「で、今日はなに?」
自分の部屋に入れてやり、適当に座るよう勧めながら切り出す。
「曲ってさー、どうやって作ればいいのかな?」
「……俺の場合、大抵PCでソフトとか使って、音を入れてくけど。朔はそういうの、わかる?」
「わかんね。パソコン持ってないし」
浄善寺からすると、PCもなくてどうするんだ? 曲作り云々でなく、不便すぎやしないか? という考えだったが、そんなこと言っても仕方ない。
「あ、そう……んじゃ、ベース弾きながら、頭に浮かんだフレーズでも、紙に書くとか、スマホで録音しとくとかして……まとめてみ。朔はベースだけだっけ?」
普段は朔のエレキベースしか耳にする機会がないが、他に何か出来たろうか。ちなみに浄善寺は、ドラムス以外の楽器はあまり触らない。打ち込んだデータを出力すればいい。極論から言えば、自分が叩く必要性もあまりない。
それでもドラムスに向き合うのは、決められたリズムをいかに正確にトレース出来るか、というゲーム的な要素を楽しむのと、体に直接響いてくる振動が心地好いからだ。
「アコギとウクレレ一応持ってるけど……普段はあんま触らない」
「ウクレレ……? なんでまた」
「見た目が可愛かったから」
「……まあ、自分が使いやすい楽器でいいと思うよ」
「漠然としてるな……」
朔はちょっとため息をついている。しかし浄善寺にしたって、難しい質問だった。
「こういうのって感性だし、口で説明しろと言われてもね……急にどうしたの?」
「眞玄に課題出されたんだけど……やってみるとは言ったものの、やり方がよく、わかんなくて。眞玄今日どっか遠くに出掛けてるみたくて、聞けないし、浄善寺なら……教えてもらえるかなって」
少し言いにくそうに、朔はぼそぼそと呟いた。
「ふぅん、課題……」
一体何をしているんだろうか? よくわからない。また朔に無茶振りしたのか。
(意図した無茶振り、か……ふざけてるわけでは、ないのか)
ふざけているようにしか見えない、なんて昨日言ってしまったが、眞玄にしてみたら朔のレベルアップを図っているのかもしれない。
「……あ、朔もしかして、眞玄に今後の方針とか言われた? 俺はそれで昨日の夜、奴と揉めた。眞玄のこと久々に怒らせたよ」
「え、……なんで揉めるん」
意外そうに、朔はちょっと下を向いて考えていた顔を上げる。
「意見の相違」
「浄善寺は、プロ云々て話は、否定的なのか」
「現実的ではないと思うよ。眞玄が一人でやればって、言った。……まあ、朔は朔の意見あるだろうけど」
朔とも特にこういった話をしたことはなかった。大体眞玄は今まで自分がどうしたいのかを、話したりはしなかったのだ。何故突然言い出したのかも、よくわからない。
(朔をモノにして、浮かれた勢いじゃなかろうな)
そんなんで振り回されるのは非常に癪だった。
当事者でもある朔は、不思議そうに浄善寺を見た。
「俺、浄善寺は肯定派かなあと思ってた」
「何故」
「だって、眞玄と一体何年、一緒にいるんだよ?」
「……何年、と言われると。トータルで十二、三年……? くらいか。言っておくけど、たまたま学区が一緒で、ただの腐れ縁だがら」
「やなら、続かないじゃん。取捨選択て言葉知ってるだろ?」
「そりゃ知ってるけど。ところでその手元にあるのは何」
「……あ、これ差し入れ」
袋から二種類のパピコを取り出して、どっちがいい? なんてやっている。
「んじゃ、半分に割って両方。こういうのは取捨選択?」
「違うと思うよ……シェアだろ」
ぱきんと割って、二種類の半分こずつを浄善寺に渡すと、朔はパピコを口にした。暑かったし折角なので、浄善寺もそれに倣う。
ともだちにシェアしよう!