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第40話 取捨選択(3)

「朔はさ……眞玄の何が好き」 「えっ」  あ、しまった。動揺を誘ったかも、なんて言ってから気づいたが、朔はやはり動揺しているように見えた。違う意味に取ったに違いない。 「……えと、音楽やるにあたって、という意味でね」 「あ、ああ、うん。だよな」  取り繕うように、朔は何か一生懸命な顔をしている。 (俺は女の子しか興味ないけど……)  どうして朔は、眞玄とそんなふうになってしまったのだろう。眞玄の我が儘を、どういった経緯で朔が許容したのか知らないが、わりと意外だった。 (あ、酔っ払ってたとか言ってたか……? 朔もしょうもないけど、それに便乗する眞玄は……どうなんだ……)  余計なお世話をぼんやり考えていたら、返事が返ってきた。 「眞玄は馬鹿っぽいけど……、やっぱ惹き付ける力がでかいから、かなあ。……声とかも、……好きだし、ギターだけじゃなくて三味線なんかも得意で、凄いなと思う」 「三味線ねえ……あれ、なんなんだろうね……。小学生の時から続けてるけど」 「そんなにキャリアあるんだ? ……でもまあ、単に、親父の影響だろ?」 「え? 知らないけど」  朔の何気ない一言に、浄善寺は眉を寄せる。親父の影響と言われても、眞玄の家には祖母しかいない。親のことなど、聞いた試しはなかった。 「ん? 聞いてねえの? 眞玄の親父、お祭りの時に三味線弾きで呼ばれてた」 「えっ、あれ眞玄の親父なの」  一体どういった流れでステージに上がる羽目になったのか、あの動画だけでは不明だった。挑発されたとか言ってた気はするが、詳しく突っ込んだりしなかった。 「朔は教えてもらったんだ、そういうの。俺には言わないよ、眞玄は。良かったね」 「……な、にが」 「俺に嫉妬するのは意味がないってことだよ。あいつはあまり、家のことは口にしない。朔には言ったんだろ。つまりはそういうこと」 「嫉妬って! ……してるように見えるか?」  ちょっと顔を赤くしてパピコを取り落としそうになっている朔に、浄善寺は苦く笑った。 「朔はわかりやすいから……だから、バレバレだよ。眞玄のこと好きでしょ。俺には隠すことないから、気にしないで」  言われた朔は軽いパニックを起こしたような、色々な表情を浮かべてみせたが、やがて諦めたようだった。 「……うん。あの……まあいいや。浄善寺だけね。俺、眞玄のこと……好きなんだわ」  自分で自分の言葉に赤面している朔に、まあ素直なことだな、と浄善寺は感心する。自分などは、あまり感情を表に出さない。大人しい男とよく言われるし、実際その通りだ。  その方が楽だから、そうしている。  眞玄が傍にいるから、自分はこんなんでいい。そう思う。 「……まあ、俺もダチとして、普通に好きなんだろね。だから取捨選択とやらで、十年以上つるんでるのかも」  浄善寺はつまらなそうに呟いて、二本目のパピコの口を開けた。

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