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第41話 新月の闇(1)

 浄善寺のところで少しアドバイスらしきものを貰って、朔はアパートに戻り少しベースを鳴らしていた。あまり遅い時間だと文句も言われるが、隣は空室だしまだ夕食の時間前だったから、それほど厳しくもない。  やり慣れない作業も、ずっとやっていると結構楽しくなってる。とりあえずスマートフォンの録音機能を使って、とりとめもない音を保存していたら、途中でぽこぽこ鳴って邪魔された。 (通知が邪魔……スマホじゃ無理があるか。レコーダーでも買う?)  浄善寺は紙に書くとか……なんて言ったが、そもそも音を紙に書き写す行為そのものが、朔はよくわからない。だから録音していたのだが、邪魔が入ると鬱陶しい。かといって通信を遮断して圏外にしてしまうのも、そもそもの用途を無視しているようで抵抗がある。  朔を邪魔した画面を見ると、今日は出掛けると言っていた眞玄からだった。   macro「今日はちょっと東京にお泊まりになっちゃった(´・ω・`)」   macro「朔といちゃいちゃしたかったよー。明日の午後か夕方か、都合はいかが?」  可愛らしいスタンプ付きでメッセージを送ってくる眞玄に、女子高生か、と内心突っ込む。明日はバイトも入れていないが、当の眞玄が出した課題に取り組んでいる最中であり、時間を有効に使いたかった。 (だけど……)  いちゃいちゃ、と言われ、体が疼いた。夕食くらい一緒に摂ってもいいし、そのあとに少し時間を割いたところで問題はない気がした。  今日はとりあえず、家電量販店に行って、手頃なICレコーダーでも買ってこよう。短く「明日の夕方ならいい」とだけ返信し、アパートを出るとベスパのエンジンをかけた。  時間を少し遡り、朔にメッセージを送る前のこと。眞玄は西野と一緒にいた。  スタジオが空いているからと言われ、ZIONの壱流をちらっと見せて貰って感動したあとに、ギターを弾きながら歌った。普段は三人でやる曲なのに、一人で演奏するのはやはり寂しかった。  単なる練習とかであるなら、一人でも良かった。自宅でもギターを弾いている。祖母の三味線教室の生徒さんがいる時は、静かにと言われて無理だったので、敷地内の蔵に移動して弾いたりもした。 「あ、三味線の人」  西野に弾くよう言われたので、ビル内のスタジオで弾いていたら、さっきの眞玄とは反対に、見学されてしまった。 「壱流! 見てきます?」 「……いい? 西野さんの担当だよね」  三味線の人、なんて表現をされて、眞玄は微妙な気持ちになる。というか、何故壱流がそんなことを知っているのだ。  壱流は確か、眞玄より5歳か6歳くらい年上の男だった。西野の方が更に年上なのだろうが、名前を呼び捨てのわりには敬語で、なんだかちぐはぐな感じがした。壱流は肌の露出を好まないのか、夏だと言うのに長袖のシャツを着ていた。  黒髪と黒い瞳がとても印象的だが、日本人なら大抵はそんな感じなのに、どうしてか壱流は特別に映った。

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