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第42話 新月の闇(2)
多くの人の目に触れ、研磨された魅力的な男だ。その壱流が、ギターを演奏しながら歌う眞玄を興味深そうに眺めている。
さすがにかっこいいなあと思いながらも、ピックを持つ手を休めずにいた。稼ぎ頭と言われるだけはある。そこにいるだけで何やらオーラのような物を感じてしまう。
「ギターも上手だね。うちの竜 ちゃんとはまた違うな」
「でしょう。僕のイチオシです」
「いつ頃デビューさせるの?」
「社長に要相談案件がありまして……ちょっと今は不明です」
「一人なんだ?」
「まあ、普段は……ってたり……、……で……」
「……ふぅん、そうなの……」
眞玄が演っている間、壱流と西野はぽそぽそ喋っている。ところどころ聞こえたり聞こえなかったりで気にはなったものの、あえて口を挟まずに自分の出来ることをしていたが、やがて曲が終わった。
「眞玄、お疲れ。良かったよー。でもちょっとアレンジ変えようか?」
「……駄目だった?」
「理由はわかってるよね」
にこにこと指摘する西野に、眞玄は少し口の端を曲げる。勿論彼の言いたいことはわかる。
「わかった。もっかいやらせて」
すぐに仕切り直し、眞玄は先程と同じ曲ながらも即興でアレンジを変えて弾き始める。歌い方にも気迫が感じられて、それを見ていた西野と壱流は雑談めいたことをやめざるを得なかった。
他人の視線も、今の眞玄には届かない。弦とピックを持つ指先を親の敵のように酷使して、音を吐き出すその姿は、普段の眞玄の軟派な態度からは想像が出来ない。
何をむきになって弾いているのだろうか。
息が出来なくなる。
指先が悲鳴を上げる。
けれど己の限界を、まだ見たくなかった。
「眞玄、さっきより良くなった。けど、力入りすぎ。ちょっと休もうか……。ところで今更だろうけど、紹介するね。こちらZIONの壱流さん。……で、壱流、こちらは眞玄くん。昨日見せた、三味線の子です」
弾き終わったところで、西野が壱流を紹介してくれた。まさか紹介してくれるとも思っていなかった眞玄は少し戸惑ったが、壱流は「よろしくね」と笑顔を見せた。黒猫のような男だと思った。
「……辻眞玄です」
普段の眞玄なら、もっと距離を詰めるような態度を取るのが常だったが、今日は色々な事情もあって、なんとなくそんな気になれなかった。ぺこりと一礼してから、またギターを握り直して弾こうとする。
「眞玄、ストップ。とりあえず休憩だってば。そんな調子で弾いてたら、指がもげるよ」
もげるかよ、と思ったがそれには触れず、現実問題を口にする。
「でも西野さんが納得してくれる音を聴かせたいしー。かと言って帰りが遅くなるのもアレだしー。俺んち、遠いんだよ」
「ホテル取ってあげるから、泊まってけば?」
「えっ西野さん、俺はそんなに軽い男じゃないよ」
ふざけて言った眞玄に、西野は苦笑いした。
「一名様用の、ホテルね。だから女の子連れ込んじゃ駄目だよ?」
壱流も何故か面白そうに笑っていた。絶対眞玄のことを、皆が皆言うような目で見ているに違いない。今更この身に染み付いている軟派臭をどうにか出来るものだろうか。眞玄にはわからなかった。
アレンジを変えろと言われたのには、わけがある。
ギターだけで映える曲にしろということだ。ドラムスもベースも存在しない中で、眞玄一人の表現力のみで完成させてみろ、というリクエストなのだった。
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