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第37話 内側と外側(2)

「眞玄が突出してるんだ。他の二人が育つの待つより、眞玄を獲得した方が早い。……勿論、育つ可能性はあるけど、うちとしては君一人だけでも売る自信はあるからね。簡単に言えば、そういうこと」  相変わらずの笑顔で、西野は厳しいことを言う。 「俺は……うちの浄善寺も、朔も、巧いと思ってるけど」 「下手とは言ってない。ただ、……そうだねえ、突き抜けてないよね、まだ。浄善寺くんなんか、ほんと要領良くドラムス操るし、めちゃくちゃ正確だけど、逆にそれがつまらない。ぶっちゃけ、プログラム組んで機械に処理させたっていいよね。……怒らないで?」 「……いや、どうぞ続けてください……」  むっとしている眞玄に気づいて、西野は苦笑いした。 「朔も、まだ発展途上。僕個人としては、結構彼は好きだよ。磨けば光ると思う。ただ、やっぱり時間はかかるかなと。……眞玄は内側にいるから、見えてない部分もあるんだろうけど、外側から見てみると、また違って見えるよ」 「……朔には今、課題を出してるんだ。曲作ってみろって」  朔のことを好意的に見てくれているのは嬉しかったが、やはり駄目出しがついて回る。どうしたものかと、アイスコーヒーを飲みながら考えを巡らせる。 「ああ、それはいい試みだと思うよね」 「西野さん……昨日浄善寺が、身の程を知ってるから、俺一人でやればいいみたいなことを、平気で言いやがったのね」 「ソロでやる気になった? 今日契約する?」 「……まだ終わってない。人の話聞いて」  今にも書類を用意しそうな勢いの西野に、眞玄はちょっと困ったように言った。 「俺自身は、バンドを続けたい。そんで出来たら三人でそれを生業にして、やっていけたらいいと、本気で思ってる。……だけど、今の段階でそれが無理ってんなら、」 「うん」  ちょっと迷ったように言葉を中断させた眞玄に、西野はにこにことした笑顔を絶やさず促した。  眞玄はここに来るまでに考えていたことを口にする。 「一旦俺がソロで出て道筋を作った上で、その裏でバンドも続けて、西野さんの言うレベルまで辿り着けたら、改めてプラグラインとして拾っては貰えないでしょうか」 「……ふぅん。そう来るとは思わなかった」  西野は少し考えるように、こつこつと自分の眉間をノックする。 「僕の独断では、なんともね。社長と相談だね。……ところでなんで、急にそういう方針転換したの? 今までわりと、煮え切らない態度だったのに」 「親父に挑発されたのもあるし、色々思うところあって。ほんと頭来るんだ、あの上弦て男は」 「あはは、わりとキャラ被るけどね、君とお父さん」  嫌なことを言われて、眞玄は黙り込んだ。知ってか知らずか、西野は気にすることもせず普通に続ける。 「とりあえず眞玄の考えはわかった。……ギター持ってきたんなら、弾いてくかい。スタジオ空いてるから。ああそうだ、今ちょうどうちの稼ぎ頭が軽く歌いに来てるけど、見てく?」 「え、誰」 「壱流(いちる)。好きでしょ眞玄」 「……好き。見ていいの? 気が散ったりしないかな?」  壱流とはZION(ザイオン)のボーカルを務める男の名前だった。自分の目的も忘れ、少し浮き足立つ。 「壱流は気にしないよ、誰が見てたって。プロだもの」  西野はまたにっこりして、「こっちだよ」と眞玄を手招きした。

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