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第34話 手枷足枷(2)

「で、どうだったの」 「それ聞いちゃうの? 浄善寺可愛い顔してやらしーなあ」 「朔大丈夫だったかなあと思ってさ」 「元カノとバック試したことあるもん……やり方くらいわかるよ。――あ、今の朔には言わないで」 「アブノーマルな性癖を披露するな……この変態」 「いや俺、サービス精神旺盛だからぁ。俺が提案したわけじゃないよ。好きな子に求められたら、エロの限りを尽くすのが男かなって」 「……あそ」  浄善寺は複雑そうな顔をしたが、もうその話題に触れるのはやめたようだ。 「んで、話戻すけど。俺は今更プロになりたいとかゆう眞玄の我が儘に付き合わないとならんわけ?」 「そうそう。付き合って?」  人の将来設計をなんだと思っているのか、眞玄は相変わらずの軽薄そうな笑顔で相槌を打つ。思わずいらっとした浄善寺の顔が不機嫌に歪んだ。 「俺は将来を棒に振る気はない。見込みのない夢を追う気もない。言ってること、わかるな?」  少し強い口調で断言した。眞玄は少し黙って、ごそりと浴衣の袂を探る。 「……あ、また。俺の前で喫煙するな」  袂から出てきた煙草に火を点けて、ゆっくり吸い込んで中空を睨み、しばし眞玄は考えるような顔をしていた。 「浄善寺は意外とつれないなあ。びっくりだよ。でも、じゃあ、わかった」  案外あっさりわかってくれたのか? と、浄善寺は肩透かしを食らう。眞玄がわりとしつこく、言い出したことを簡単には却下しない男だと知っていた。念の為、恐る恐る尋ねてみる。 「……わかったのか?」 「曖昧なプランニングじゃ駄目ってことだろ。じゃあ次はしっかりプレゼンしてみせるわ。それまでちょっと保留(ペンディング)しといて」 「そっちかよ」  眞玄は少しだけ吸った煙草を灰皿に押し付けて、アイスが崩れてぐずぐずになっているコーヒーフロートに口を付けた。  少しの間、気まずい沈黙が落ちた。 「……お祭り、なんか動画見たけど。飛び入り参加したやつ」  沈黙に堪えかねたのは浄善寺だった。居合わせた人が撮影してくれた動画を、眞玄のタイムラインに貼り付けておいたのを見たのだろう。 「うん、挑発されて仕方なく」 「まあ……ああいうのを見ると眞玄は確かに、音楽で食ってけそうだな、とは思う。おまえに華があるのは認めるよ。確かにかっこいいんだろうし、己の見せ方を知ってる奴だよな」  珍しく褒めている浄善寺に、眞玄は不審そうな目を向ける。案の定、直後にネガティブな発言が来た。 「ただ俺はさ、多分そういうのとは縁がない」 「……浄善寺。寂しいこと言わないで? まさかおまえに否定されるとは思わなかったわ、俺」  眞玄としては、長い間ずっと一緒にやってきた浄善寺が、そんなふうに感じているなんて、思いもよらなかった。他のバンドのヘルプに呼ばれるほど重宝な存在なのに、何を躊躇うのかわからない。

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