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第46話 心の底にあるもの(1)
眞玄のクーペに乗せて貰ったのは初めてだった。小さな車体。二人しか乗れない可愛らしい車の助手席に収まりながら、朔は昨日買ったばかりのICレコーダーを何となく触る。
「朔、それ何?」
「うん、レコーダー。浄善寺にさ、どうやって曲作ったらいいか、聞いて。スマホで録音でもすればって言われたものの……なんか気が散って。こっちにした」
「あ、ごめん、俺邪魔した? 少しは進んだ?」
「うーん、ほんとに少しだけ」
「やっぱエロいことは男の子の原動力だよね」
課題の先にあるご褒美を指摘された気がして、朔は思わず眉を寄せる。
「別に……それは関係ないんだけど」
「えっ、朔。俺の体を好きにするのはやめたの? もしやめたんなら、早めに教えといてね。俺にも都合あるから」
「都合って何」
「心の準備。あと、前以てバック開発しといた方がいいのかな? とか。朔にお手間を取らせるのもどうかと思って」
例によって変態っぽい発言をされて、朔の口元が軽く引きつる。本当にこういう発言しなければいいのに。残念イケメンてこういう奴のことを言うのだろうか。ちょっと違うか。
「……眞玄……ちょっとドン引きだよ。ナニしようとしてんだよ一体」
「あっ引かないで……軽いジョーク。――でも俺、マジ受身とかやだもん。やらないなら、それはそれで歓迎。朔のこと可愛がりたいからあ」
「生憎今んとこ、却下はしないけど……。ところで東京行って何してきたん。スカイツリーでも見てきた?」
「見てないけど、ちょっと用事、……俺ね、……いや、この話はまたあとで。ご飯食べに行こっか」
「なんか歯切れわりいの」
何だか言いづらそうな眞玄は、まっすぐ前を見て運転しながらも、冴えない表情だったが、信号待ちの時にちらりと朔を見た。
「……今夜、抱っこしていい? 曲作りの邪魔になりたくないけど、あんましつこくしないから」
「聞くんだ……、そういうこと。眞玄はやりたきゃ我を通すタイプかと思った」
「朔のこと大事にしたいから。……で、どうかな?」
「……いい、けど……どうせ始めたらむちゃくちゃヤるんだろ」
朔は困ったように視線をあらぬ方へ向けて呟いた。車内は距離が近く、オープンカーにもなるルーフは閉じていた。
その狭い空間は、朔の心臓を無駄にどきどきさせた。
眞玄は、昨日何をしていたのだろう。隠すようなことか。もしや浮気はしないと言っておきながら、誰かと何かしていたのか。
けれど夕食を摂る為に入った焼肉店でも眞玄は特にその話題には触れなかった。
「たまには俺んち来る? ばあちゃんと音緒いるけどさ」
「……エッチすんだろ? ちょっと……落ち着かないかも。しないんなら、行ってもいいけど……」
そう言えば眞玄の自宅はあまり行ったことがない。結構でかい平屋建てで、蔵なんかがある家だ。古いがメンテナンスの行き届いた家、という印象だった。
(土地代だけでも、結構行きそう……うちの実家とは違うなあ。なんなんだあの無駄な広さの家)
エッチしないなら、なんて言われて眞玄は不本意そうに反論した。
「部屋までなんて、滅多に来ないよ? ああ、でも音緒はわかんないか……じゃあ、ラブホ行く?」
「俺のアパートじゃ、駄目なん?」
「出来れば二度目は、シチュ変えたい主義なんだよねー」
「わりぃ、俺そういう場所、抵抗ある」
行ったことがなかったし、なんとなく男同士で入るのは気が引けた。眞玄は特に気にした様子も見せず、「じゃあ、やっぱ朔んちだねえ」とタン塩にレモンを付けながら笑った。
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