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第50話 真黒の棘(2)
「……だから、なんての……ほんと二人には仲良くしてて欲しいっつーか」
まとまっていない言葉に、不器用ながらも朔の気遣いが汲み取れた。
「喧嘩、してるんかな? 俺達……いや確かに俺、怒ったな……うん。謝っとく。でも浄善寺だって俺を怒らせたんだよ。よく考えたら俺は悪くない」
「なんでもいいから、仲良くしろよ」
「……はーい」
しょんぼりした眞玄を、「ちょっとこっち」と手招きする。煙草を吸うのに少し距離を取っていたようだが、吸い終わったので眞玄も空き缶の灰皿をちゃぶ台に置いて、朔の隣に腰を降ろした。
「でな、ソロだっけ……怒らないよ、別に俺は。浄善寺もそういう考えみたいだし、俺は眞玄を止めたりは、しない」
「でも俺、バンドでプロ目指したいって……朔に言ったよね」
気まずそうな眞玄に、朔は苦笑いする。
「眞玄、才能あるじゃん? 俺はその邪魔をしたくない。バンドは確かに……楽しいけど、おまえのこと束縛してまで、やろうとは思わない」
「え、朔、それはちょっと待って。違う、俺の考えは……そうじゃなくて」
物わかりがいいんだか悪いんだかわからない朔に、ちょっと焦ったように眞玄は続ける。
「先方にも話したけど、……俺は今後も並行してバンドは続けたい。今は力不足とかむかつくこと言われたけど、絶対に諦めたくないから! だから朔、お願い」
「……」
「俺を見捨てないで」
先程と同じ言葉を繰り返された。
眞玄の手が、着たばかりの朔の服をぎゅっと握っている。その不安そうな様子に、またしても「子供っぽさ」を感じ取る。
(眞玄って……もしかして)
ふと浮かんだ考えを、言ったらまずいのかな、なんて思いながらも言ってしまう。
「眞玄、さっきも置いてかないでとか、見捨てないでとか、色々口走った。覚えてねえの? ……あれって、トラウマなん。寂しいのか」
「……朔、」
「小さい時から、親が傍にいない状況って、俺にはピンと来ないけど、……想像すると、結構つらい? ……気がする。そういう親から当たり前に受けるはずの愛情ってのが、絶対的に不足してる状態でさ、ここまで育っちゃった……みたいな……眞玄はずっと、そういうの隠してんの? リミッター外れるってのは、性欲とかも含むにせよさ、感情も含まれてるのか? 我慢してること、溢れてきちゃうのかな……って」
何をわけのわからないことを言っているのだろう。見当違いだったらちょっと恥ずかしい。けれど眞玄は黙り込んで、朔の目をじっと見つめている。
「眞玄……? えっ? なに、なんでいきなり泣いてんの!?」
唐突に、ぼろぼろっと零れた涙に、朔は動揺する。一応は年上の眞玄が、普段からチャラい男がいきなり泣くなんて展開はまったく予想しておらず、どうしたら良いのかわからなくて戸惑った。嗚咽を漏らすこともなく、ただその瞳から、涙が零れ落ちていた。
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