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第2話 フェティシズム(2)

「相変わらず、頭空っぽだなおまえは。そんなだから留年するんだ」 「えー……それはさあ。朔と長く一緒にいれるかと思ってさあ。同じ大学に入ってきてくれたから、いい機会だと思って」 「……え、それ本気で言ってんの? やばいなおまえの思考回路」  どこまで本気だか知らないが、嘘だと思う。  途中から違うことに夢中になって大学に行かなかったとか普通にあり得るし、実際高校生の時に、そんな理由で留年の危機に陥ったのを浄善寺は知っている。 「俺やれば出来る子だもん。単位取るのなんてほんとは楽勝」 「ばあちゃんが悲しむぞ。……ほら、腹減ったからもう行こう。眞玄車出せよな」 「俺は俺の思う通りに生きるんだよ」  えらそうに言っても、中身が伴っていない。  眞玄が乗ってきた黒いクーペの助手席に勝手に乗り込みながら、浄善寺は呆れたように嘆息した。 「しょうもない奴に惚れられたもんだな。朔も可哀想に」 「……朔がいけない。俺だって朔に出会うまでは、男とか興味なかったもん」  どういう理屈だかわからないが、眞玄にしてみたら何か理由があるようだった。  車に揺られながら浄善寺からの目線で、眞玄お気に入りの朔という男を分析してみる。  ベースはそこそこ巧い。安定感がある。  一重瞼なのでお目目ぱっちりというわけではないが、眼力は結構ある。八重歯は萌えポイントだろうか? 細っこいが骨太で、華奢とは違う。  軟骨ピアスが痛そうだ。実は口を開けると舌ピアスが開いてるのも知ってる、怖い。あと眉毛整えすぎじゃ?  人懐こいわりには、眞玄とどこか距離を置こうとしているような。そのわりに、確かに眞玄をなんらかの意味で意識しているようだ、というのはわかる。  ――以上、分析終わり。 「眞玄は、朔のどの辺を気に入ったんだ?」  それまで男に興味がなかったなら、何故好きになったのかわからなかったので、聞いてみた。  眞玄の返事は、まったく予想していないものだった。 「フェロモン」 「……え?」 「俺、朔の匂いが大好きなんだ。理屈じゃなく、たまんねえの。俺の本能を刺激すんだよね」 「…………いや、あいつ別にこれといった匂いしないよ? おまえみたいに香水つけてるわけでもないし」 「え、じゃあ俺だけが感じてるの? 波長が合ってんのかな? だとしたら運命? この前もさあ、起き抜けの朔の汗の匂い嗅いだら、それだけで勃起しそうになって。だからマジで、あの時は朔とめちゃくちゃエッチしたかったのに拒否られて、ムラムラしたまま飯食ってたら治まったけど、帰ってからまた思い出して一人で抜いた」  こいつは何を言ってるのかなー、ちょっとわからんな、と浄善寺は困惑した。 「そういうの、なんていうんだっけ……匂いフェチ? ていうか眞玄、おまえ結構な変態だな」 「可愛い顔して変態なんて言わないで。浄善寺、長い付き合いじゃん。あとねえ、俺確かに匂いって言ったけど、厳密に言うとフェロモンて匂いとは別物らしいんだよね。遺伝子レベルで愛しちゃってるってことかな」  なんだかよくわからないことを言い募る眞玄は、変態と言われて非常に不本意そうだった。 「前見て運転してくれ、頼むから」  馬鹿なことを話しているうちに、和風ファミレスの駐車場に到着した。

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