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第52話 真黒の棘(4)
泊まるとは言っても布団は狭い。仕舞い込んであったシーズンオフの掛け布団を敷き布団の代わりにして、元々の敷き布団とくっつけた。
「ちょっともこもこだけど、いい?」
「朔とくっついて寝るから、いいのにぃ」
さっき泣いたことなんて忘れたように、座布団を折って枕がわりにしながら、眞玄は軽く笑った。
「やっぱ眞玄は、そういう顔のが似合うよ」
「朔も、笑っててね。笑ってりゃ、なんとかなるし」
「たまには泣いてもいいけどさ……泣きついでに、眞玄のこと喋って」
眞玄は眠いと言ったわりにだらだらと起きていて、朔の体をいつまでも離してくれない。またしても密着してくる男に、暑いな……なんて思いながらも突き放すことをせず、朔は会話を促した。
「聞きたいの? なんも面白くないけど」
「いいから」
「はいはい……んー、何から? まあとりあえず、俺がずっと寂しかったってのは、今更隠しても仕方ないんで。その辺?」
考えるようにゆっくりと、話し始める。
「俺は小さい頃からばあちゃんと二人きりでさ、あのだだっ広い家で……過ごしてた。お母さん、離婚してから実家にいたのって、多分一年かそこらしかなかったから……。よく三味線の生徒さんが来てたりしたけど、稽古中はやっぱ俺のこと構っては貰えないし、なんか知らんけど上弦が置いてった三味線触るようになった。気を紛らす為に始めたのか、生まれた時から聴いてた親父の音をまた聴きたかったのか……とにかく、孤独から逃れる為だったよね」
「ふうん……でも、続けてるわけだし、嫌いじゃないだろ」
嫌いだったら、あんなふうに弾けるわけがない。
通常三味線で演奏するような曲はまだ聴いたことがなかったが、ああいうのも弾けるのだろうか。ただ、ロックテイストでまとめた和楽器の音が、とても新鮮で耳に心地好かった。ギターとはまた違う、激しい音。
「そうなるかな。……でさあ。お母さんが再婚する時に、俺、聞いちゃったんだよね。俺をどうするのかって、新しい旦那と、ばあちゃんとの三人で話し合いしてんのを。まあ俺が……疎外感からかな……向こうに馴染まなかったってのも、あるんだけど」
「……え、眞玄でもそんなことあるん」
人見知りなど一切せずに、誰とでも打ち解けているイメージだったのに、母親の再婚相手はやはり別なのだろうか。もしかしたら、疎外感もそうだが、母親を取られてしまって嫉妬していたのかもしれない。
「うんまあ……。んで、俺は知っての通り親父似で、正直愛想を尽かして別れたであろうお母さんとしても、新しい旦那がいたら、俺のこと疎ましくなってきちゃったみたくて……ばあちゃんも業を煮やして、自分が預かる、みたいな話し合いに、最終的にはなった」
なんでもないことのように、あえて単調に話しているのかもしれなかった。けれどそんなの、ひどく身勝手な話ではないか。
「その件が、俺の中で……今でも棘になってんの。お母さん、ばあちゃんがそれ言ったら、特に迷いもせずに、じゃあお願いって。……俺のこといらないんだなあって、すごく感じて。だから向こうからそのことを俺に言ってくる前に、……見捨てられて置いていかれる前に……こっちから言ってあげたのね。ばあちゃんといたいって。……そんで今に至る」
「親父んとこ戻るって選択はなかったん」
「ああ、駄目駄目。あの男も三味線馬鹿だから。音緒だって預けてきてるようなクソ親父だよ? 男は金稼いで家族を養えばいい。家のことは関知しないってタイプの人間だもん」
恨んでいるようには聞こえない。それでもやはり、寂しかったのだろう、と朔は思う。
もしかしたら、寂しさを埋める為に、今の眞玄が形成されたのではないか。八方美人で、誰とでも近距離で、常にチャラい。寂しいと殻に籠っていても、余計に寂しさに拍車がかかるだけだった。
朔はぽつりと口を挟む。
「多分俺の場合は……多少コミュ障入ってるんかもしれないけど、眞玄は逆だな。コミュニケーション取りすぎて、あらぬ誤解を受けるタイプ」
「あらぬ誤解って?」
「遊びだと思われるってこと。……正直俺も、そう思ってた。わりぃ。……でも、違うんだよな?」
「俺は本気で朔が好きなんだよ」
「……そか。じゃあさ、」
朔は言葉を切って、また眞玄にキスしてやる。
「人生頂戴はちょっと重たいけど、とりあえず傍で見ててやるよ。おまえが一人でどこまで出来んのか」
眞玄は嬉しそうな、寂しそうな、複雑な顔をしていた。
また涙が出てきそうになったのか、瞼を下ろした。
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