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第55話 向日葵とりんご飴(1)

 十月一日、休止前の最後のライブの夜。遠藤朔は二十歳になった。  昨日が課題の締め切り日で、ぎりぎりまでねばって眞玄に提出することが出来た。夏はもう終わっていた。  眞玄はICレコーダーに録音されたそれを、なんだか意外な顔でじっと聴いていたが、曲が終わって、 「明日、一人で弾いてみる?」  と微笑みを浮かべた。  それはつまり及第点だったのだろうか。はっきりした答えを、実はまだ貰っていない。それとも、判定は観客に任せる、という意味だったのだろうか。 (そういうの、緊張するんだけど……勘弁)  けれどそのように言われてしまったので、一応何度も練習して、準備はしてきた。最後だからということで、今日は対バンは組まずにプラグラインの単独ライブだ。時間もある。朔が一曲くらい一人で弾いても、問題はない。  ないが、緊張はする。  浄善寺が開始前のライブハウスの端の方で盛大なため息をついている朔の肩を、ぽん、と叩いた。 「朔、誕生日なんだって? おめでとう。なんもないけど」 「……サンキュ」  正直それどころではなかった。緊張している朔に気づいているのか、浄善寺はどうでも良い軽口を述べる。 「少しの間、俺とタメだな。俺は二月だから。眞玄だけ仲間外れ」 「なんだよそれ! 浄善寺、俺のいないとこで悪口言ってんな」  唐突に眞玄が乱入してきて、文句をたれた。 「おい眞玄、もしかして今日も三味線やんの?」 「今夜は盛り沢山ですー。浄善寺も、たまには弦楽器に手を出すとか、キーボードやってみるとか、してみれば。なー、朔ぅ」 「う、うん……そうだな」  あらかじめ組んだタイムスケジュールで、三人ともそれぞれ一曲ずつ、ソロで演奏する機会を設けていた。しかし今更浄善寺に他の楽器をやるなんて選択肢はない。現在持っているドラムスの技術をすべて注ぎ、リズムを叩き出すつもりだった。 「何、盛り沢山て。もしかして朔もベース以外のなんかやんの?」  相変わらず察しが良い浄善寺は、朔を見て考える。 「あ、わかった。当てていいか」 「わかんないと思うよお」  眞玄は何故か勝ち誇ったような笑みを浮かべたが、浄善寺はあっさり当てに来た。 「ウクレレ」 「……んだよ、つまんね。なんで浄善寺知ってんの。朔、教えた?」  教えていない。ぷるぷると首を振った朔を見て、眞玄は納得が行かなそうな顔をしている。 「ま、頑張れ。失敗してもいいから、まずは楽しめよ」  浄善寺の言葉に、「俺が言おうとしたのに!」と眞玄がまたクレームをつけた。  さっきまでの緊張感が、少しほぐれた気がした。

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