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第59話 約束(2)

「でねー、俺の担当の西野さんが、俺が曲を作るのは構わないんだけど、とりあえず、一発目は大事だから、絶対にこけさせたらまずい、万全を期したい、とかで……」  眞玄はちょっと不本意そうに、言い募る。 「……デビュー曲に関しては、ZIONからの楽曲提供……ってことに。なったみたい。ただ、カップリングは俺のでいいって……だから作ってるのはまあ、作ってる」  来年の一月に、シングルを出すと言われた。この前軽く打ち合わせして、初めてZIONが二人揃った上で話したのだが、やはり竜司は寡黙な男で、世間話的なことには一切ならなかった。曲のことだけを話し、とりあえず任せるよう言われた。  確かに無名の新人である自分が作る曲よりも、安心安全の品質、というのはわかる。言うことを聞くのも大事と壱流に言われ、今回はとりあえず言うことを聞いてやることにしたのだが、先日竜司のギターで弾いたざっくりとしたサンプルを聞いた感想といえば、 「やっぱプロは違うわ……」  という素直な賞賛だった。  とりあえず来年の一月まで少し間があるが、何も活動しない、というわけではない。曲を出す前のプレ活動として、とりあえず認知度を上げるこまごまとした動きをする。  勿論学業もおろそかには出来ない。二年連続で留年するわけにはいかなかった。しっかり単位を取って、朔と一緒の学年でいる必要があるのだ。何の為に去年留年したかわからなくなる。 「何その贅沢な不満。でもそれ、かなりレアじゃね? 今までZIONてそういうの、あったっけ?」 「やっぱ自分でやりたかったからさ……。でもなんか、事務所側としても、ZIONに新しいことさせたいってのがあったらしくて、ちょうどそんな時に俺が、壱流のお気に召したらしく……。今思えば、なんか試されてる気はしたんだよ。壱流のボーカルに合わせて弾かされるとか、俺がどこまで出来るのか、見てたのかも」  本当に何を贅沢な不満を漏らしているのだ、と朔は改めて思ったが、眞玄が自分でやりたかったという気持ちもすごくわかるし、それ以上はあまり突っ込むのをやめた。  そんな会話をしているうちに、眞玄の自宅へ到着した。22時近くなっていた。  台所に寄ってコーヒーを淹れ、冷蔵庫からケーキの入った箱等を持って、眞玄の自室に向かう。祖母も音緒も、時間的にもう就寝しているのだろう。長い廊下は、しんとしている。  着流しのままの眞玄は、所作が普段とは違って見えた。背筋がぴんとしていて、歩き方が美しい。古き良き日本家屋、といった風情のこの家に、着物は似合う。 「眞玄んちって、一体なんなん? やたら広い」 「よくは知らなーい。小さい時から住んでるから、こんなもんかなって。でもうち、二階ないじゃん? 友達んち行くと、なんか羨ましかった」 「いや……ここんち二階必要ねえだろ……。もしかして、結構由緒正しげな家柄だったりするん……? 跡取りとか……そういう問題あったりするのか」  何故そんなことが気になったのかというと、やはりそんな問題を抱えているのであれば、将来的には結婚して家庭を持つのが当然、と思ったからだ。言外の心配を、当の眞玄が気づいたかは不明だった。 「さあ……知らない。ばあちゃんそんなこと言わないし……でも養子縁組はしてるんだよねえ。音緒はばあちゃんの血族ではないから、男は俺しかいないし、跡取りっちゃ、跡取りかも」 「……ふうん」  朔の声のトーンが、若干下がった。

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