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第60話 約束(3)

「そういや相続とか生前贈与? のこととかで、この前弁護士と話した……。なんか面倒そうな……俺そういうのやだ」  心底うんざりした声でぼやいて嘆息する。眞玄としては、まだ祖母が元気なのに何を色々相続対策しているのだ、という不満があった。母と揉めるのも嫌だし、正直本当にどうでも良い。だからこそ弁護士を入れているのだが、そんなのは眞玄の知ったことではなかった。 「うえー、それって金持ちの家の話じゃね? うちの実家じゃ、そんなの一切話題にのぼらないよ」 「……でも贅沢したことは、あんまないよ。小遣いも貰ってないし」 「だって眞玄、バイトしてないじゃん。どうやって生活してんの」  動画の広告収入、なんて言いたくなかった眞玄は、笑ってはぐらかす。 「そこは突っ込んだら駄目な部分です。……で、泊まってく?」 「……うん」  朔はまだ眞玄の自宅に泊まったことがなかった。いつもは眞玄が朔のアパートに泊まる、というパターンだったので、なんだか緊張してくる。  着替えも何も、持ってきていない。 「本当は遅い時間にケーキとか、あんま良くないみたいだけど、誕生日だから、今日は特別ね」 「なあ……課題の締切日って、もしかして俺の誕生日にこうなるように設定してたん……?」  今更ながらの指摘に、眞玄は少し驚いたような顔をした。 「気づいてなかったの? 朔、案外鈍いね。折角もったいぶったわけだし、朔へのバースデープレゼントにでもなればー、と思って……まあ、不本意だけど」 「そんなに嫌なら、別にいいよ。無理にしなくたってさ」 「……嫌とかじゃ、なくて」  眞玄は困ったように笑って、自室のテーブルにケーキ等を置いた。 「ほんとは単に、俺の意識の問題。俺にエロいことされて可愛く鳴いちゃってる朔を知ってるから、それを俺に置き換えるのが……もう、無性に恥ずかしい。自分がどうなっちゃうのか、想像出来なくて」 「……俺だってそれに毎回堪えてるわけだけどそれは」  呆れた声で突っ込んだものの、朔も恥ずかしくなってくる。確かに眞玄に攻め倒されて、結構な痴態を見せてしまっている気がする。少し話題を変える。 「とりあえず眞玄のオキニとやらを食おうよ」 「そうだねー、開けるよ。……じゃじゃーん! お名前入りです」  ケーキの箱を開けると、ホールのケーキに「HAPPY BIRTHDAY 朔」と書いてあるのが見えた。 「カットケーキで良かったのに……でか」 「年に一度のことだし。今年の俺の誕生日は、朔と過ごせなかったから……来年の七月十一日は、約束ね」  その時は確かにこんな関係でもなかったから、誕生日を祝うなんてことも特になかった。結構先の話だな……と、朔は残念に思う。 (あの頃は……眞玄、ナンパばっかしてたなあ……)  今はまるでそういうことがない。朔が俺の物になってくれたら浮気しない、なんて言われた記憶があった。

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