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第63話 吐息(2)
「朔……エッチだなー。俺何されちゃうのかなぁ」
「茶化すな。……そういや、眞玄。前に変なこと、言ってたじゃん?」
「何を?」
「自分でバック開発……したん?」
「いやいや……してないし……ジョークって言ったじゃん。だから朔、もし俺にぶち込みたいなら、ゆっくりしないと、入らないから。……面倒でも、ちゃんと、してね。……痛いのはやだよ?」
苦笑している眞玄に、自分でも一体何を聞いているんだと恥ずかしくなった。もし眞玄のジョークがジョークでなかったら、それはそれで一体何をしているんだこの男は、という状況が出来上がるわけだが、想像したらそれもまた、たぎるものがある。
「そいや俺、なんもアイテム持ってない、けど……」
「仕方ないなあ……ほら、ほんとは俺が朔に使う用だけど、貸しね」
便利なポケットよろしく、眞玄の着物の袂から、コンドームとローションが出てくる。どうしてライブ用に着ていた着物の中に、こんなの隠し持っているのか。備えあれば憂いなしか。
「置いといて……眞玄の、舐めてやるから」
眞玄の好きなピアスの舌。以前マジヤバいと表現されてから、たまに気が向いた時に舐めてやったが、そうするととても喜ばれる。朔に能動的に何かをされると萌える、などとわけのわからないことを言っていた。
「俺また顔面ぶっかけちゃうかもよ。そしたら怒るだろう」
「だからそこは、ぶっかけんじゃねえよ……事前に言えよ」
「言ったら飲んでくれんのー?」
「飲むか! ……ああもう、緊張したのがあほくさい」
さっきまでの雰囲気はどこへやら、眞玄の言葉はどんどん朔のやる気を削いで行く。
「緊張ばっかしてたら、勃つもんも勃たないよ」
眞玄はくすりと笑い、着流しの袖を抜く。
「シワになるから、これは脱がせてな……はい、あとは朔の好きにしなよ。……朔もとっとと脱いで」
衣擦れの音がして、眞玄の素肌があらわになった。言われて朔は自分の服にもぞもぞと手を掛けた。やはり頭が回っていない。失念していた。それでも眞玄の言動で、少しは冷静になれた気がする。もしかして、わざとだったのだろうか。
「眞玄はもう……黙ってろよ……すぐ俺をおちょくるんだからな……」
「……ん」
面白そうな眞玄の唇を奪って、言葉も奪う。
そのままベッドの上に縫い止めるように体を押し倒し、うっすらと開いた唇を割って中を探ると、さっき食べたケーキの味がして、甘かった。
いつも朔を抱く時の、ちょっとおかしなテンションの眞玄とは違う。軽口は相変わらずでも、なんだが勝手が違う。
心の準備とやらをして、己を抑えているのだろうか。朔のなすがままになっている男は、唇が離れても追い縋ることはせず、行動を見守っている。
(くそ……余裕かよ)
もしかしたら眞玄は、朔が最後まではしないと思っていやしないだろうか。
途中で心が折れて、いつもの展開になるとか、考えているのかも知れない。だからこんなに余裕しゃくしゃくで、朔のことを見つめている。そんな気がした。
(余裕、なくしてやんよ)
眞玄の下半身に顔を近付け、ピアスの舌で舐めてやる。先端に当たるように、わざと銀色に輝くピアスを意識する。金属の感触が割れ目を軽く抉り、眞玄の体がびくんと震えた。
ちらっとその顔に目をやって、またどきりとする。
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