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第66話 終わりではなく(1)

 一月某日、朔の成人式の日。  年末からの降雪が未だに解け切らない為にとても寒いその日は、羽織袴を着付ける約束をしていた。成人式というイベントは、親にとっても大切だ。朔はそんなわけで久々に実家に帰っていた。アパートからそんなに遠くない、普通の一戸建てだ。  レンタルした衣装を朔に着付けてあげる為に、眞玄は初めて朔の実家を訪れた。応対してくれた朔の母親はとても気さくな女性だった。眞玄は不意に自分の母親を思い出そうとしたが、幼い頃の記憶はおぼろげで、急には思い出せなかった。  眞玄が去年成人式をした時は、一応両親からそれぞれに短い電話が来たが、直接顔を合わせたりはしなかった。  朔を、羨ましく思う。 「あらー、眞玄くんよね。いつも息子がお世話になってます。……忙しいのに、悪いわねえ」 「いや、こちらこそ。お邪魔します」  考えていることなど表には出さず、笑顔を見せる。ないものねだりしても仕方ない。  客間に通され、置かれていた衣装を手に取る。シンプルな羽織袴は、朔に着せたらきっと似合うだろう。朔が二階から降りてきて、布地を確認するように触っていた眞玄に声を掛けた。 「早かったな」 「だって、うさちゃんと待ち合わせしてるんだろ。足元悪いし、行動は早め早めにね」 「式が終わったら、一度着替えと……あ、その前に写真館で撮影すんだっけ……とりあえず家に戻ってくるけど……そのあと同級で二次会に入っちゃうと思う」 「まあ定番のコースだよね。楽しんでおいでよ。……んー、脱ぐ時はどうする? 俺待機してた方がいい?」 「脱ぐくらい、自分で出来るよ」 「あ、じゃあ。終わる頃、会場まで迎えに行くよ。俺ね! おととい納車で、乗り換えたんだよぉ。四人まで乗れます」  納車と聞いて、朔は不審な顔をする。車を買い換えるなんて話は聞いていなかった。眞玄は小さな愛車を気に入っているように見えたのだが、そうではなかったのだろうか。 「……前の車は? 売ったの? 今度は何」 「レクサスIS250Cっていう、オープンカー。コペンはねえ、上弦に売りつけた。気に入ってたみたいだから。俺も気に入ってたけど、二人乗り厳しい時あるから手放した」  確かに二人しか乗れないのは、たまに困る。辻家も今は三人家族だし、一緒に出掛けることもあるだろう。眞玄はおばあちゃん子で、母親の違う弟のことも可愛がっていた。 「またオープン……好きだな眞玄。ていうか、散財してんじゃねえよ。型式言われてもわかんねえけど、レクサスってけして安くはねえよな?」 「だって俺、オープンカー至上主義だもん。それに中古だからー、これまでの貯金と、上弦の下取り価格と、事務所の契約金ちょい足しでなんとか」 「いくら貯金してんだよ……おまえの収入源がわからんわ。怪しげな商売してんじゃねえの?」 「……三味線の演奏動画撮って、その広告収入、だよ。別に朔が心配するようなことは、全然ないし。ちゃんと確定申告もするから大丈夫」 「え、なにそれ。バンドの動画の場所にはないじゃん。別アカ? 教えろよ。見たい」  今まで秘密にしていたことを、妙な誤解をされても困る為に口にしたら、意外な反応が返ってきた。

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