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第68話 終わりではなく(3)
眞玄のデビュー曲は、まだ発売にはなっていないが、既に告知のCMが流れている。更にタイアップとして夕方やっているアニメのエンディングに使用されていた。朔は普段あまりアニメとか見ないのだが、とりあえずチェックしてみたら結構面白くてはまった。知った歌声がテレビから聴こえてくるのは、なんだか変な感じがした。
「この前初めてCM見たけど……良かったよ」
「え、俺テレビでは全然見てないんだけど。ちゃんと流れてる?」
「眞玄、あんまテレビ見ないじゃん……」
「ああ、まあねえ……だって俺、やることいっぱいあるから。学校のレポートも出さなきゃなんないし」
「今回は単位どうなん」
「任せて。俺はやれば出来る子です」
眞玄はどうもこの「やれば出来る子」というフレーズが気に入っているらしい。ことあるごとに言う。けれどその意味は、やれば出来るというよりも、出来るまでやる、とにかく頑張る、ということのようだった。
今回のデビュー曲は自分で作れなかったが、結局ギターを弾いているのは眞玄自身なので、他人の作曲とはいえ、ちゃんとそれなりに眞玄の音になっていた。ZIONの知名度は高い。それに飲まれないように、頑張るしかない。
「あ、朔、明日はラジオねー」
「わかってるよ。待ち合わせ、駅でいい?」
「うん。……お手柔らかに」
去年バンドの活動を休止して少ししてから、ラジオ番組も持たされていた。
事務所としても、眞玄を売る為に色々考えている。朔の目から見ても、眞玄は喋りが達者な方だとは思うが、放置しているとボケまくって大変なことになる。折角見た目はいいのに、残念な方向へ突き進む。しかもラジオなので、顔が見えない。
何かいい案はないかと相談されて、なんだか知らないうちに朔が引っ張られた。ツッコミ担当で、眞玄を制御する役割だ。
いわゆるバイトみたいなものだが、結構色々勉強になるし、何より眞玄を傍で見ていられることが出来たから、朔も承諾した。少しは喋ることが得意になってきた。
週一で眞玄と一緒にラジオ局に出向き、その日のうちに帰ってきて、どちらかの家で色々したりして……翌朝ちゃんと大学へ行く、というサイクルが出来上がっていた。ちょっと眠いが仕方ない。
眞玄が忙しくて、会う時間がおのずと削られるだろうと思っていたから、この週一の決められたスケジュール、というのはなんとなく安心感があった。絶対に会える、確定の日だから。
勿論大学に行けば、会えることは会える。けれどやはり顔が広い眞玄が、朔だけのものであるわけがない。更にソロ活動なんて始めてしまったものだから、これまでそんなに仲良くもなかった人達まで眞玄に興味を持ったりして、なかなか学内では思うようには行かない。夕方は朔自身がバイトをしたり、教習所に通ったりもしているから、やはり時間が取りにくかった。
「そいや朔ぅ、免許取れそう? 仮免行ったんだっけ」
「ああ、順調だけど……ただ今路面凍結とか怖くて、進んでない。眞玄は怖くねえの」
「さすがに冬タイヤは履いてるし、普段よりか注意はしてるよ。でもま、俺が気を付けても、追突されることだってあるから、車間距離はねー、充分に取らないと。朔も気を付けてね」
確かに眞玄は安全運転で、連日の雪で若干凍結している路面でも、ひやひやすることなく乗っていられた。
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