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十話:『非紳士的な男だと証明済み』
「錦、電話が鳴っています」
「そうですね」
「とらないのですか?」
「先生がとられては?」
「佐々木、電話」
呼び出し音が切れない内に佐々木が子機を手にして錦に差し出す。
何という卑劣な連係プレーだ。
不満気な面持ちで佐々木を見上げると、鋭い目つきで見下ろされた。
「出なさい」
若狭が微笑む横で佐々木が頷く。
何なんだこいつらは。
そう思いながら通話ボタンを押すと『梨汁ぷしゃああああ』と訳の分からない事を言われた。
「大声を出すな何だお前は!! まず名前を名乗れ馬鹿者っ!」
『ん? もしかして錦君? やった錦君だぁ!! まさか君が電話に出てくれるとは思わなかった。運命だねっ。僕だよ。グッドイブニング錦君。君が愛してやまない海輝お義兄様だよ! 昨日電話で話してから約二十五時間ぶりだ。錦君は今日も美人さんなんだろうね。早く会いたいよ』
「更紗は無事だろうな?」
トランクに詰め込んだ時点で非紳士的な男だと証明済みだ。
『更紗君は君が来てくれたら解放するよ。大丈夫手荒には扱っていない。五体満足でない人質なんて意味がないからね。怒ってたけど麦チョコあげたら機嫌がよくなったよ。あの食感癖になるよね』
麦チョコとは何だと気になったが、それどころではない。
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