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十四話:『捕まえられるものなら、捕まえてごらんなさい』

「若狭様、追跡されております」 「さては、どこかの少年愛好家が錦に一目惚れでもしましたか」 「一理ありますが、錦様は現在ヘルメットによりお顔が隠されております。若狭様に好意を抱かれた可能性が考えられます」 「佐々木は分かっていない。顔が見えないからこそ余計にそそられるものなのです。困りましたね。食べ頃と言うには若干未熟ですし差し出すわけにはいかない」 「確かに、おっしゃる通りですね」  何が「おっしゃる通り」だ。 「海輝さんが怒るとかなり面倒臭いでしょう?」 「一族壊滅で済めば、まぁ、可愛い程度でしょうね」 言葉を濁す佐々木に若さが鼻で笑う。 「残念ですがあの人は可愛くないので、それでは済まないんですよねぇ」 「恐ろしい」  ――何をいっているのだ、こいつらは。  追跡すると言う事は相手も速度超過をしているのだろう。  そんな危険運転をする輩が若狭以外にいるとは。  何と嘆かわしい事だろうか。  まて、何故追跡?  錦はサイドミラーで後方を確認し、ぎょっとする。  点灯する赤色灯、白と黒の車体。  通報されたか、巡回中のパトカーに遭遇したかは謎だ。  車間距離を詰めようとするが速度超過の危険があったのか、かなりの車間距離を開けたまま「前の車止りなさい」とマイクスピーカーから停止命令を受ける。  若狭は「ふふ、私の速さについてこれますかね。捕まえられるものなら、捕まえてごらんなさい」と不敵に笑う。 「先生、これ以上スピードは出さないでくださいっ! とまってください」  背後から突然サイレンの音が響いた。  先生っと語気も荒く叫ぶが若狭は聞く耳を持たない。 「若狭様、緊急事態のようですね」 「緊急事態になりそうですねぇ。仕方がない。錦、足元のその『赤い棒』を下さい。緊急事態発生です」  緊急事態と言われ、言われるがままに足元にある赤い筒を抜き取れば若狭が手を伸ばして受け取る。  ハンドルから手を離さないでほしい。  片手操作をし乍ら器用にキャップを外して、底に差し込む。  何だか物凄く嫌な予感がした。  その赤い筒、何だったか。

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