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十七話:『おい、眼鏡ども何故だ? 何故車で乗りこんでくるんだっ?』

「私が人身事故を起こすわけないでしょう」  あっけらかんとした口調。  振り向けば若狭が呆れたように錦を見上げてくる。 「確かに人的被害は不幸中の幸いにしてゼロだ。死傷者が出ず何よりです。しかし、この状況を理解したうえでの発言なんですか。如何考えても運転過失建造物損壊罪を犯している。佐々木さん、今の状況を先生に報告してください」 「巻き込まれた人は誰も居りませんが、ご覧の通りエントランスのドア及び花台等のインテリアと柱の一部を損壊しました。車の状態ですが簡単に確認する限り、花台と花器にぶつかった際、ボンネット、ヘッドライト、フロントバンパに傷とへこみが出来き、柱に接触した際に左側リアドアからリアフェンダパネルまで摩擦による傷および塗装の剥がれが目立ちます。また、リアフェンダパネルからリアバンパが大きくへこみ左側テールランプは完全に破損致しました」 「ほぉ、それは大変です」  ――花台をなぎ倒しにさらに一回転半し左側の後部座席が大理石の柱に激突し車が止まったのだ。  あぁ、と呻き錦は額に手を置き天を仰いだ。  何て酷い状況だ。  後悔などしても意味はないと分かってはいたが、時間が巻き戻せるなら車に乗せられたあの時、どんな手を使ってでも若狭を阻止すべきだった。  抵抗をしなかった自分を殴りたい。 「お客様っお怪我はございませんか」  駆けつけたホテルスタッフは、こんな状況を引き起こした相手にも実に紳士的だ。  錦が謝罪の言葉を口にしようとした時、不快なスリップ音と更なる悲鳴が響く。  破壊されたエントランスドアから、若狭の部下三人の乗る車が入り込んできたのだ。  メルセデスの後ろに当り前のように駐車し、慌てた様に飛び出してきて我先にと若狭の元へ駆けつける。 「おい、眼鏡ども何故だ? 何故車で乗りこんでくるんだっ? 此処が駐車場に見えたなら全員眼鏡を新調すべきだ。速やかに眼科を受診して処方箋を取得して来い」  佐々木は「若狭様の後を忠実に追いかけて来たのでしょう」とつぶやいた。  ふざけてるのか。  嘴広鸛みたいな顔をしやがって。

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