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十八話:『こいつら三人の眼鏡を無性に叩き割りたい』
若狭と同じテーブルにつくなど恐れ多い等と言い、結果彼らは若狭の足元に正座していた。
別のテーブルで待機しろよと突っ込むが、若狭が放置したので眼鏡どもは
「我々は若狭様の犬なのでお気になさらず」 「下から見上げる若狭様もお美しい」
と絨毯の上に迷うことなく正座した。
ダメだこいつら。
佐々木は若狭の向かいに腰かけている。
「人がいない所に駐車しておりますし何か問題でも? 私が車を停めた所が駐車場なのは世の常識ではありませんか?」
「若狭様の仰る通りです」「駐車場とは若狭様が駐車なさった所をいうのです」
三人の部下が、力強く頷く。
自信に満ちた眼鏡三重奏に、彼らを理解することは不可能と判断する。
「……逮捕されればそんな呑気なことは言ってられないだろう」
「逮捕!?」「何と言う事を仰るのです!」「そのような不逞の輩は我々が始末いたします。ご安心ください」
こうしてみると、軍用犬が吠えている様だ。
暑苦しく煩い。
「構いませんよ。警察は好きですから。手錠って背徳的ですよね。警棒が有れば直よし。――ねぇ?」
光の角度により赤銅を帯びる瞳が妖艶に瞬く。
「はぁああっお美しいっ」
そして、部下三人の腰が砕けた。
「あぁ、何と麗しく尊いお方だ」と祈る様に跪いたまま涙を流す刈上げ眼鏡、胸に手を当て天を仰ぎ「アヴェ・マリア」を歌う七三眼鏡、拳を床に打ち付けるオールバック眼鏡。
ホテルのロビーにて奇行に走りながら眼鏡トリオは喜びを露わにした。
ふざけているようで、彼らは本気なのだ。
「俺は今、こいつら三人の眼鏡を無性に叩き割りたい」
「錦様のご高察通り、若狭様は器物損壊に加え建造物損壊の罪を犯してしまわれた」
目の前で身もだえる三人の眼鏡どもを見ていると、やはり佐々木が不思議とまともに見えてしまう。
毒されているとしか言えない。
「他にも山ほど悪さしただろうが」
「流石にこれは海輝様が黙っては居られますまい」
つまりは、目の前の彼はこのホテルに関しての損害のみ鑑定しているのだ。
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