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『嫌いな事と不要な事は同義ではありません』
弟の更紗が帰宅しないので先に若狭と二人で夕食を摂っていた。
若狭は「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ」と言うが、門限はとうに過ぎている。
若狭ではなく錦が決めたことだが、門限が過ぎるときは事前に予定を報告をするか、または必ず連絡を入れるのがこの家での約束事だ。
「こういう時の為の携帯電話です。今度買うので持ちなさい。嫌いな事と不要な事は同義ではありません」
錦の不安を見透かした言葉だ。
以前、携帯電話をすすめられ時に、単純に必要性を感じなかった事と首に鈴を付けられている様で好きではないと断った。
そう言えばその時も、好き嫌いと必要性の有無は同義ではないと諭された。
「……前向きに検討します」
校則で禁止されているため携帯電話は持っていない。
厳密には学院への持参及び校内での使用が禁止で有り、所有に関しては禁止されていない。
校則違反ではないので殆どの生徒が携帯電話を所有している。
校内で携帯電話の使用許可が出ているのは、生徒会執行部等の委員会活動をしている一部生徒だけだ。
もちろん私物ではなく学院が法人契約したものなので、プライベートに使用することはできない。
「更紗には持たせた方が良いでしょうね」
「お前も持ちなさい」
錦が携帯電話を持たないのであればと、更紗も同調した。
今まで携帯電話を持たなかったことに特別不便は感じなかった。
だから、携帯電話を欲しいとも思わなかった。
そしてその結果、現在大変困っているのだ。
――あと五分待ち帰宅しなければ学院側に電話をしてみよう。
そう考え、時計の針を見たとき事態が変わる。
佐々木が両手に抱えているのは、更紗の学生鞄だった。
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