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『門限より大事な物とは何だ』

「申し訳ない。報告の続きを」  若狭の許可を得て佐々木はよどみなく報告を続ける。  朝比奈家の情報を元に更紗の行動を辿れば学院を出たのが十七時三十五分。  その後彼はバスを使用し学院最寄りのデパートへ向かう。  デパートに入店したのは十八時二分。  因みに自宅とは正反対の方向だ。 「何故寄り道をしたんだ」 「何故と言われても用事があったからでしょう。行き先はデパートなので目的は買い物では。一人で出かけたのですね」 「彼は親しい友人が殆ど居ませんから。誰かと待ち合わせの線も考えられません。 しかし俺との約束を破る等きっと何か余程の理由が有る筈だ。何故態々門限を破りデパートに?」 「一度門限から離れなさい」 「規則を設けるのは秩序ある生活を送る為。よってルールは守るためにあるのです。それから学校帰りの寄り道は校則違反だ」 「追加で校則含む規則からも離れなさい」   錦と若狭の会話が途切れた所に佐々木が報告を続ける。 「『夢路堂』で七夕限定の和菓子を本日お受け取りに行かれたようです」  一枚の紙が食卓に乗せられる。  注文書と予約受け取り伝票の控えだ。   申込み日は一週間前で、受け取りは本日を指定している。 「老舗和菓子屋ですね。あそこの菓子は絶品なのです」 「うちの門限は十八時三十分なのに何故学校帰りなんだ。第一、七夕は明日だ」  本当は、現在の錦と更紗の学院生活に合せて門限を十八時と決めていた。  しかし更紗が難色を示したので三十分だけ伸びたのだ。 「休日に出かけるのが面倒臭いと考えたのでは」 「何てことだ。あいつめ。最初から門限を破る気だったのか。故意に規則違反までして、感心できません」 「お前も大概石頭ですねぇ」  現在の錦と更紗の保証人は一応目の前の男だ。  何かあった時この男は如何するつもりなのだ。  錦がむっとした顔を見せるが、言い返すことはせず佐々木に話の続きを促す。 「若狭様、錦様と召し上がるご予定であったと考えられます。 特に錦様が召し上がる菓子に関して、原材料、製造過程も詳しくお調べになっていたとの報告を受けております」  流石に錦も閉口した。  若狭は口元を手で押さえぶわっと涙ぐむ。  和菓子が食えなかったからか、更紗のいたいけな優しさに感激したのか。  七対三で前者の理由が大きいだろう。  彼はそう言う男だ。

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