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『強硬手段』
ライトグレーの夏物スーツを着こなし、汗一つかいていない様な涼し気な表情。
毛先が軽く踊る柔らかな髪、揃いの胡桃色の大きな半月型の瞳。
微笑んだように見える優し気な形。
錦の大好きな目。
「――海輝」
画面に映し出された彼はどこか機嫌がよさそうに見えた。
食い入るように見る錦に対し、若狭はふむと頷く。
「これは恐らくオペレッタのボッカチオを小声で歌っていますね。原詩と日本語訳の違いを比べてみると面白いですよ」
「そんな物心底どうでも良い」
「海輝さんは始めから、更紗に狙いを定めて彼の一日の行動を把握し尾行して拉致したのでしょうね」
「更紗は?」
「ここでしょう」
指さしたのは大きなトロリーケースだ。
華奢で小柄な弟なら、確かに入るだろう。
ただし更紗が望んでバッグに収まったとは考えられない。
海輝がレストルームへ入った時刻と出てきた時刻を考えれば、何らかの形で更紗を気絶させ隣接しているドレッシングルームか又はレストルームの中でかはわからないが、気を失った更紗をバッグに詰め込んだと言う事だろう。
暴力的な強硬手段をとったのだ。
嘘だ信じられないと言う驚愕と否定、何てことをしたんだと言う嘆きと怒りで体が震えた。
――海輝が俺に酷い事をするはずはない。
しかし、それはあくまで錦に限定した話なのだ。
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